婚約中の浮気で慰謝料は請求できる?婚約の証明・相場・請求の流れを弁護士が解説

婚約中の浮気で慰謝料は請求できる?婚約の証明・相場・請求の流れを弁護士が解説

「婚約中に相手の浮気が発覚した。でも、まだ結婚前だから慰謝料は請求できないのでは」——そのような思い込みから、泣き寝入りしてしまう方がいます。しかし、婚約中の浮気(不貞行為)でも、慰謝料を請求できる場合があります。

男女問題の受任実績1,000件以上の弁護士として、婚約中のトラブルについても数多くのご相談に対応してきました。婚約に関する慰謝料請求は、結婚後の不倫と比べて法的な仕組みが複雑な部分があります。ここでは、婚約の法的な位置づけから、証拠・相場・請求の流れまで、実務的な観点からわかりやすく解説します。

目次

婚約とは何か——法律上の位置づけ

婚約とは、将来、婚姻を成立させることを約束する男女間の合意です。法律に明文規定があるわけではありませんが、判例・実務上は「婚姻予約」として法的保護の対象となります。単なる道徳的な約束や交際関係の延長線上のものではなく、一定の法的効果が認められます。

婚約関係が成立すると、当事者には「将来の婚姻に向けて誠実に努力すべき義務(誠実義務)」が生じます。この誠実義務に違反する行為、たとえば正当な理由なく婚約を破棄したり、婚約中に浮気をしたりした場合には、債務不履行または不法行為(民法415条・709条)に基づく損害賠償が問題となります。

なお、婚約は法律上、届出などの形式的な手続きは必要なく、当事者双方の合意のみで成立します。ただし、「本当に婚約していたのか」が争いになることが多いため、後述する証拠の問題が重要になります。

「婚約していた」と認められるための条件

慰謝料を請求するためには、まず「婚約が成立していた」ことを証明する必要があります。相手が「結婚の約束などしていない」「冗談だった」と主張してくることも多く、この認定が大きな争点になります。

裁判所は、以下のような客観的な事実を総合的に考慮して婚約の成否を判断します。

認定要素具体的な例重要度
儀礼的・習俗的な行事結納の実施、婚約指輪の授受、両親・親族への正式な挨拶非常に高い
対外的な公表・周知友人・職場への結婚報告、結婚式の招待状の送付、二次会の準備高い
経済的・生活的な準備新居の購入・契約、同居の開始、結婚式場の予約・内金の支払い高い
身体的・実態的な関係妊娠・出産・中絶の事実、長期間の同居(事実婚に近い状態)非常に高い
意思表示の記録プロポーズの言葉、結婚を前提としたLINE・メールのやり取り補完的(内容による)

特に重視されるのは、結納や婚約指輪の授受です。これらは古くからの判例においても、婚姻予約の成立を強く推認させる事実とされています。

一方で、注意が必要なのは「言葉だけのプロポーズ」です。「ずっと一緒にいよう」「好きだから結婚したい」といった発言が、真摯な婚姻の意思に基づくものか、その場の「睦言」に過ぎないのかは、周辺事情を含めて判断されます。言葉だけで他の客観的な事情がない場合、婚約の成立が否定されることもあります。

婚約中の浮気で誰に請求できるか

婚約中の浮気が発覚した場合、以下の相手に対して慰謝料を請求できる可能性があります。

①婚約者本人への請求

婚約者に対しては、「婚約中の不貞行為(誠実義務違反)」と「婚約破棄(不履行)」の両方を理由に損害賠償を請求できます。浮気が発覚した後、婚約を続けるか破棄するかによって請求の組み立ては変わりますが、不貞行為そのものに対する慰謝料は、婚約を継続する場合でも請求できます。

②浮気相手(第三者)への請求

浮気相手に慰謝料を請求するには、相手が婚約の事実を知っていた、または通常の注意を尽くせば知り得たといえる事情が必要です。この判断は、紹介の有無・周囲への公表状況・SNS投稿・結婚準備の外形などを総合して行われます。以下はその判断を基礎づけ得る事情の例です。

状況故意・過失を基礎づけ得る事情の評価(総合判断)
同じ職場に勤務しており、社内で婚約の事実が周知されていた過失を基礎づけ得る事情の一例
婚約者のことを紹介されていた、SNSで婚約を確認していた故意を基礎づけ得る事情の一例
土日・祝日・深夜に連絡が取れないなど、交際相手の存在を疑うべき事情があった過失を基礎づけ得る事情の一例
左手の薬指に指輪をしていた過失を基礎づけ得る事情の一例
「独身」と偽り、独身証明書まで見せていた無過失と判断される可能性がある(請求が困難になる場合がある)

近年増えているのが、マッチングアプリで「独身」としか説明せず、婚約中の事実を隠すケースです。相手がプロフィールや書類で婚約者ではないと信じるに足る理由があった場合、「知らなかった」として浮気相手への請求が棄却されることがあります。逆に言えば、婚約者が嘘をついていた証拠が揃えば、浮気相手の責任は相対的に小さくなる一方で、婚約者本人への請求はより強固になります。

また、婚約者の浮気相手に対しては、単に不貞行為があったというだけでは足りず、背信的なほど悪質だったなどの特段の事情が必要であるとする見解もあります。そのため、結婚後の浮気と同一視できないところがあるところに、注意が必要です。

慰謝料の相場

婚約中の浮気・婚約破棄に関する慰謝料は、婚姻関係(結婚後)の不倫と比べると一般的に低めとされる傾向があります。ただし、個別の事情によって変動幅が大きく、以下の数字はあくまで参考値です。

状況慰謝料の目安(参考値・個別事情により大きく変動する)
浮気が発覚し、婚約破棄に至った場合50万〜200万円程度(妊娠等の事情がある場合は300万円を超える事例もあるが、例外的)
浮気が発覚したが、婚約を継続する場合50万〜100万円程度
妊娠・中絶を伴う場合100万〜350万円程度(事情により高額化)

慰謝料が増額される事情

  • 交際・婚約期間が長い
  • 結婚準備が具体的に進んでいた(式場予約・新居購入など)
  • 仕事を辞めて家庭に入る準備をしていた
  • 不貞の期間が長期・頻度が高い
  • 妊娠・中絶を余儀なくされた
  • 「別れる」と嘘をつきながら浮気を継続していた
  • 請求者の年齢が高く、再婚の機会が限定される

慰謝料が減額される事情

  • 浮気への関与が消極的だった(相手から強引に誘われたなど)
  • すでに相手方(婚約者または浮気相手の一方)から相当額の支払いを受けている
  • 浮気発覚前から婚約関係がすでに事実上破綻していた
  • 請求者側にも異性関係があった

妊娠・中絶が伴う場合——慰謝料は大幅に高額化する

婚約中の浮気に妊娠・中絶が絡む場合、慰謝料は大幅に高額化する傾向があります。単なる誠実義務違反にとどまらず、女性の身体・精神・人生設計への深刻な損害が加わるためです。

事案の類型慰謝料の傾向
結婚の約束を信じて妊娠したが、実は既婚者だった150万円超の高額慰謝料が認められる事例あり
妊娠判明後に態度を急変させ、一方的に婚約を破棄・中絶を強要150万〜300万円程度
中絶を一方的に押しつけ、費用負担・話し合いを拒否50万〜150万円程度(中絶単体の苦痛)

「産んでも認知しない」といった発言や、中絶費用の負担拒否は、慰謝料の増額事由として強く機能します。また、中絶手術の費用自体(目安として約8万〜40万円)も、財産的損害として別途請求できます。

慰謝料請求に必要な証拠

慰謝料請求の成否を大きく左右するのは、証拠の有無と質です。「婚約していた事実」と「不貞行為の事実」の両方を証明する必要があります。

婚約を証明する証拠

  • 婚約指輪(受け取った事実がわかるもの)
  • 結納に関する記録・写真
  • 両親・親族への挨拶の記録(写真・メッセージ等)
  • 「結婚しよう」「入籍しよう」という明確なやり取り(LINE・メール)
  • 結婚式場・新居の契約書・領収書
  • 友人・職場への結婚報告の記録

不貞行為を証明する証拠

証拠の種類具体的な内容立証力
直接証拠ラブホテルへの入退室写真(双方の時間が確認できるもの)、性行為中の動画・画像非常に高い
自白・念書不貞を認めた録音データ、謝罪文、具体的な日時・相手が記載された念書高い(後の翻意対策が必要)
デジタル証拠LINEやメールでの肉体関係を示唆するやり取り(「泊まった」「避妊しなかった」等)中程度(内容による)
行動・履歴証拠GPSの滞在記録、クレジットカード明細(ホテル・旅行先の支払い)補助的(他の証拠との組み合わせが重要)
物的証拠見覚えのない避妊具、相手からのプレゼント・手紙補助的

証拠収集の注意点——やってはいけないこと

証拠収集の方法によっては、逆に自分が法的リスクを負う可能性があります。以下の行為は避けてください。

やってはいけない行為該当する可能性がある法律
相手のスマートフォンを無断で確認するプライバシー侵害・不法行為の問題が生じ得る。さらに、ID・パスワードを入力してアプリやWebサービスにアクセスした場合には不正アクセス禁止法違反となる可能性がある
浮気相手の自宅に無断で侵入して証拠を収集する住居侵入罪(刑法130条)
相手の持ち物にGPS機器等を無断で取り付けたり、承諾なく位置情報を取得したりするストーカー規制法等に抵触するおそれがある
SNS・職場に不貞の事実を暴露する名誉毀損罪・プライバシー侵害

証拠収集の方法に迷う場合は、動く前に弁護士に確認することをお勧めします。不適切な方法で収集した証拠は、裁判で証拠能力を否定されたり、逆に自分が訴えられる根拠になったりすることがあります。

請求の流れ——内容証明から示談・訴訟まで

Step1:内容証明郵便による請求

慰謝料請求の第一歩は、内容証明郵便による通知です。内容証明郵便は、「いつ・どのような内容の文書を・誰から誰あてに差し出したか」を郵便局が公的に証明するものです。ただし、文書の内容が真実であることまで証明するものではありません。相手への心理的な圧力になるとともに、時効の完成を6ヶ月間猶予させる「催告」としての法的効果もあります。

内容証明には、不貞の事実・不法行為である旨・請求金額・支払期限・振込先・期限内に回答がない場合の法的措置の予告を記載します。感情的な表現や「会社にバラす」といった脅迫と取られかねない文言は絶対に入れないようにしてください。脅迫罪・恐喝罪に問われるリスクがあります。

Step2:示談交渉・合意書の作成

相手が事実を認め、支払いの意思を示した場合は示談交渉に移ります。口頭での合意だけで終わらせず、必ず書面(合意書)を作成してください。合意書には以下の条項を盛り込むことが重要です。

  • 不貞の事実の確認
  • 慰謝料の総額と支払スケジュール
  • 清算条項(今後一切の請求をしない旨の確認)
  • 口外禁止条項(SNS投稿等の禁止)
  • 接触禁止条項
  • 違反時のペナルティ(違約金)

支払いが分割になる場合は、公証役場で「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成しておくことで、支払いが滞った際に裁判なしで給与の差し押さえ等が可能になります。

Step3:訴訟(交渉が決裂した場合)

交渉が決裂した場合や、相手が事実を完全に否定した場合は、裁判所への訴訟提起になります。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、それ以上は地方裁判所が管轄になります。

訴訟では、請求する側(原告)が不貞事実を証拠によって証明する責任を負います。裁判所は「証拠によって証明された事実」を認定する場ですので、証拠の質が勝敗を大きく左右します。裁判の途中で裁判官から和解を勧告されることも多く、一定の譲歩によって早期解決を図ることも現実的な選択肢の一つです。

逆請求のリスク——相手から訴えられる可能性

慰謝料を請求した結果、逆に相手から損害賠償を請求される「逆請求」のパターンを知っておくことも重要です。

浮気相手からの「貞操権侵害」の主張

婚約者が浮気相手に「自分は独身だ(婚約者はいない)」と嘘をついて交際していた場合、浮気相手は「婚約者の嘘によって騙された被害者」という立場になります。この場合、浮気相手は婚約者本人に対して「貞操権侵害」として慰謝料を請求できる可能性があり、こちら側から浮気相手に請求できる金額が大幅に減額・棄却されるリスクがあります。

名誉毀損・業務妨害による逆請求

SNSや掲示板への書き込み、職場への連絡・FAXの送付など、自力救済が行き過ぎた場合には名誉毀損・業務妨害として逆に訴えられるリスクがあります。たとえ内容が事実であっても、社会的評価を低下させた場合には損害賠償義務が生じることがあります。

こうしたリスクを避けるためにも、すべての窓口を弁護士に一本化し、感情的な行動を避けることが、自らの法的優位性を保つ上で重要です。

よくある質問

Q. 婚約指輪はもらいましたが、結納はしていません。婚約として認められますか?

認められる可能性があります。婚約の成立には結納が必須というわけではありません。婚約指輪の授受は婚約を推認させる有力な事実とされています。これに加え、両親への挨拶や結婚の準備を進めていた事実などを組み合わせることで、婚約の成立が認定されやすくなります。

Q. 「プロポーズされたが、指輪もなく口頭だけ」の場合はどうですか?

口頭のプロポーズだけでは、婚約の成立が認定されにくい傾向があります。ただし、その後に両親への挨拶・新居の準備・式場の予約など具体的な準備が進んでいた場合は、総合的に判断されます。手元のLINEや写真などで、婚姻に向けた具体的な行動があったことを示せるかどうかがポイントになります。

Q. 浮気は発覚しましたが、婚約破棄はまだしていません。それでも請求できますか?

できます。婚約を継続していても、不貞行為そのものに対する慰謝料を請求することは可能です。ただし、婚約を継続する場合の慰謝料は、婚約破棄に至った場合と比べると低めになる傾向があります。

Q. 婚約者には請求せず、浮気相手にだけ請求できますか?

できます。浮気相手が婚約中であることを知っていた(または知り得た)場合に限りますが、婚約者への請求を行わずに浮気相手にだけ請求することは法律上可能です。ただし、浮気相手から婚約者に対して求償権(支払った分の一部を求める権利)が行使される可能性があります。この点も踏まえて、示談書の内容を設計することが重要です。

Q. 婚約中に妊娠・中絶をしました。何を請求できますか?

慰謝料に加え、中絶手術の費用(財産的損害)も請求できます。また、婚約破棄が伴う場合は結婚準備にかかった費用(式場キャンセル料、新居の敷金等)も損害として請求できる可能性があります。妊娠・中絶を伴う事案は慰謝料が高額化しやすく、個別の事情の整理が重要ですので、弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 婚約を証明する証拠がほとんどありません。請求できますか?

証拠が少ない場合でも、複数の状況証拠を組み合わせることで婚約の成立が認定されることがあります。まずは手元にある情報(LINEのやり取り・写真・領収書など)を整理した上で、弁護士に評価してもらうことをお勧めします。

まとめ

婚約中の浮気・婚約破棄に関する慰謝料請求は、「婚約が成立していた事実」と「不貞行為の事実」の両方を証明することが基本になります。ポイントを整理します。

  • 婚約は届出不要で成立するが、成立の認定には客観的な証拠(指輪・両親への挨拶・準備の記録等)が重要
  • 婚約者本人と浮気相手の両方、またはどちらか一方に請求できる
  • 浮気相手への請求は「婚約中と知っていた・知り得た」ことが条件、さらに「悪質性」が求められることも
  • 慰謝料の相場は婚約破棄に至った場合で50万〜200万円程度。妊娠・中絶が伴う場合は大幅に高額化する傾向
  • 証拠収集の方法を誤ると逆に法的リスクを負う可能性がある
  • SNSへの暴露・職場への連絡など自力救済は名誉毀損等の逆請求リスクがある

「証拠が十分かどうかわからない」「婚約として認められるかどうか不安」という段階でも、まずはご相談ください。男女問題の受任実績1,000件以上の弁護士が直接対応します。


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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

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