不倫慰謝料を払い終えた後に取り返す方法|求償権の行使手順【弁護士解説】

不倫が発覚して相手の配偶者から慰謝料を請求され、弁護士に相談する余裕もないまま、提示された金額をそのまま払い終えてしまうことがあります。

ところが、一緒に関係を持っていたはずの相手(不貞配偶者)は一円も負担しておらず、相手夫婦はすでに離婚して、当の本人は何事もなかったように暮らしている、ということも少なくありません。

そういう場合に「あの人にも負担してもらえないのか」とご相談に来られる方がいます。

払い終えた後であっても、求償権という権利を使って、不貞配偶者に負担分を請求できる可能性はあります。

ただ、この権利にはいくつか前提があります。

①不倫は法律上「共同不法行為」とされ、本来は二人で分担すべき損害賠償であること。

②請求できるのは慰謝料の全額ではなく、ご自身の負担部分を超えて払った分であること。

そして、③支払った時から5年という時効があること。

この3つが、求償を考えるうえでの土台になります。

以下では、男女問題を含めた受任件数1,000件以上を扱ってきた弁護士の立場から、実際に取り返すまでの手順、負担割合の考え方、そして動き出す前に確かめておきたいことを、順にお話しします。

目次

求償権とは「払いすぎた分を取り返す権利」

そもそも、なぜ自分だけが全額払うことになったのでしょうか。

その理由は、不倫(不貞行為)が不貞配偶者とあなたの共同不法行為だからです(民法719条)。

二人は被害者(相手の配偶者)に対して連帯して損害賠償責任を負っており、「連帯して」とは、被害者がどちらか一方に全額を請求できるという意味です。相手が支払いを無視していても、あなたひとりに全額請求されることが起こるのは、この仕組みのためです。

ただし、これは被害者に対する「外側」の話です。二人の「内側」では、それぞれの負担割合に応じて分担するのが本来の姿です。あなたが自分の負担部分を超えて払った場合、その超過分を相手に請求できます。これが求償権です。

なお、求償権で取り返せるのは「あなたの負担部分を超えた分」であり、慰謝料の全額ではありません。この点は、のちほど具体的にお伝えします。

いくら戻る可能性があるか|負担割合の実務

不貞慰謝料の内部負担割合は「5対5」が出発点です。5対5の場合、支払い総額の半分を取り戻せる可能性があります。あなたが誘われた側・既婚であることを隠されていた側であれば、不貞配偶者の負担がより重く評価され、6〜9割と認めた裁判例もあります。逆に、あなたが積極的に関係を主導していた事情があれば、あなたの負担が5割を超え、取り戻せる額が減ることもあります。

相手に落ち度があったからといって、それだけで「6〜7割は取れる」と楽観的に見込むのは危険です。相手が負担割合を争ってきた場合、裁判所の判断は個別の事情次第になります。下の試算はあくまで5対5(出発点)の数字です。

支払い総額あなたの負担部分(5割)取り戻せる目安(5割)
100万円50万円50万円
150万円75万円75万円
200万円100万円100万円
300万円150万円150万円

もう一点、正直にお伝えしておきます。求償の計算の基礎になるのは、あなたが払った示談額そのものではなく、「不貞そのものに対する客観的な慰謝料額」です。「早く終わらせたくて相場より高く示談した」「事後の態度が悪質で上乗せされた」といった事情があると、裁判所がその上乗せ分を差し引いて基礎額を見直すことがあります。「300万円払ったから150万円取れる」と単純には決まりません。実際の回収額は、相手が割合をどう争うかによっても変わります。

時効は「支払った時から5年」

「もう時効になっているのでは」。そう不安になって、この見出しを開いた方もいるかもしれません。求償権の時効期間は、慰謝料を支払った時から5年です。

よくある誤解正しい起算点かどうか
不倫がバレた時から
合意書・示談書を結んだ時から
慰謝料を支払った時から

「時効が近いかもしれない」と感じている方は、早めに動いておくと安心です。内容証明を送付すれば6か月の時効完成を猶予でき(催告)、訴訟を提起すれば時効が更新されます。時効はこの2つの方法で止められますので、「まだ間に合うかどうか」だけでも確認しておく価値はあります。

動く前に、この4点を先に確かめてください

求償権を行使する前に、次の4点を確認しておくと安心です。いずれか1つでも当てはまる場合は、動き方が変わってきます。

確認項目求償権行使の前提
慰謝料をすべて支払い済みか全額完済が前提。分割途中・一部支払いのみは対象外
示談書に「求償権を行使しない」と書かれていないか求償権放棄条項があれば行使できない可能性が高い
相手夫婦はすでに離婚しているか婚姻継続中は実益が薄く新たなトラブルのリスクがある
不貞配偶者に資力(収入・財産)があるか資力がなければ判決を得ても回収できない

「求償権を行使しない」「相互に求償しない」「一切の請求を放棄する」。示談書にこうした文言があれば、求償権はすでに放棄されたことになります。

厄介なのは、弁護士なしで示談した場合です。相手方弁護士が用意した書面にこうした条項が入っていても、気づかずサインしてしまっているケースが少なくありません。示談書・合意書の現物を手元に置いて確認しておくと安心です。文言の意味がわからないときは、弁護士に判断を仰ぐことをおすすめします。

求償権を行使する具体的な手順

手順は「内容証明で請求→期限内に支払いがなければ速やかに訴訟→判決・強制執行」という流れです。だらだらと交渉を続けることはせず、期限内に支払いがなければ、そのまま次のステップへ進みます。

ステップ1:内容証明の送付(求償の請求)

まず、不貞配偶者に対して内容証明郵便で求償の意思と金額を通知します。不貞の事実・支払い金額と支払い日・負担割合の考え方・支払期限・振込先口座を記載します。相手が期限内に支払えば、それで解決です。

ステップ2:支払いがなければ、速やかに求償金請求訴訟

相手が期限内に支払わない場合は、交渉を続けず、速やかに求償金請求訴訟を提起します。訴額によって管轄が変わります。

請求額管轄
140万円以下簡易裁判所
140万円超地方裁判所

訴訟では、①不貞行為の共同不法行為(合意書・公正証書・判決等)、②あなたが慰謝料を支払った事実(振込履歴・領収書・調書)、③負担割合の主張、の3点を立証します。

ステップ3:判決後も払わなければ強制執行

判決が確定した後も相手が支払わない場合は、給与差し押さえ・預金差し押さえ等の強制執行に進めます。ただし、これができるかどうかは、相手に差し押さえるべき財産があるかどうかにかかっています。動く前に資力の見込みを確認しておきたい理由は、ここにあります。

弁護士に依頼するメリット

「弁護士に頼まず、自分で進められないか」と考える方もいると思います。実際、自分で内容証明を送ること自体は法律上できます。ただ、弁護士名義の内容証明は個人名義より相手が真剣に対応せざるを得ない点、負担割合の主張に実務経験が活きる点、訴訟・強制執行まで一貫して対応できる点は、自己対応との大きな差になります。

また、合意書に口外禁止・接触禁止条項がある場合、求償行使そのものが違約金リスクになる可能性があります。弁護士が事前に書面を確認するのも、依頼するメリットの一つです。

弊所の場合の費用の目安は、着手金(事務手数料)11,000円+報酬110,000円+回収額の20%+訴訟実費(別途)です。日当は33,000円/回ですが、弁護士が介入する場合、裁判はWEB会議で進むことが多く、実際に裁判所に行くことは少ないため、ほぼ発生しません。回収の見込みが100万円以上あれば、費用を払っても手元に残る金額は十分に出る水準です。

よくある質問

求償権を行使すると、相手から逆に訴えられますか?

求償権の行使は法律上認められた権利の行使です。それ自体が違法になることは原則ありません。ただし、合意書に求償権放棄事項がある場合、請求行為が違約金の対象になるリスクがあります。示談書の内容は、事前に弁護士に確認しておくと安心です。

既婚であることを知らずに交際していた場合、求償できますか?

既婚であることを隠されて交際していた場合、あなたの「不法行為への関与」は軽く評価される方向に動きます。不貞配偶者の負担割合が高く認められ、求償で取り戻せる金額が増える可能性があります。ただし、最終的な割合は事情次第であり、保証できるものではありません。

分割払いの途中でも求償できますか?

本記事で解説している求償の手順は、慰謝料を全額支払い済みであることを前提にしています。分割払いの途中や一部のみの支払いでは、まだ対象になりません。全額を支払い終えたタイミングで、あらためてご相談ください。

相手の住所がわかりません。それでも請求できますか?

内容証明の送付には相手の住所が必要です。住所が不明の場合、住民票の職務上請求(弁護士が行う方法)等で調査できる場合があります。ただし調査可能かどうかは個別の状況次第です。住所がわからない段階でも、まずご相談ください。

「一切の請求を放棄する」と書いてあるが、求償権は放棄していますか?

「一切の請求を放棄する」という文言は、求償権を含む広い意味で解釈される可能性があります。ただし文言の解釈は、誰が誰に対して何を放棄したのかという文脈によって変わります。自己判断せず、示談書の現物を持参して弁護士に確認することをおすすめします。

まとめ

不倫慰謝料を全額払い終えた方が求償権を使って取り返すには、4つの前提(全額完済・求償権放棄条項なし・相手夫婦が離婚済み・相手に資力がある)を確認したうえで、内容証明での請求→支払いがなければ速やかに訴訟→判決・強制執行という手順で進めます。

ポイント内容
根拠民法719条(共同不法行為)・最判昭和63年7月1日
負担割合の出発点5対5(半額)。誘われた・既婚を隠されたケースでは6〜9割の裁判例あり
計算の注意払った額がそのまま基礎にならない場合がある(基礎額の引き直し)
時効支払った時から5年(民法166条1項)
手順内容証明→支払いがなければ速やかに訴訟→強制執行
弁護士費用の目安着手金11,000円+報酬110,000円+回収額の20%(訴訟実費別)

「自分のケースで動けるかどうか」がまず気になる方は、示談書・合意書・振込記録をお手元にご用意のうえ、お気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

小林 聖詞(こばやし さとし)/東京弁護士会(登録番号51560)

東京都港区新橋3-2-3 千代川ビル4階

男女問題を含めた受任件数1,000件以上を対応してきました。不貞慰謝料・離婚を数多く手がけています。行政での相談等も数多く対応しております。JADP認定メンタル心理カウンセラー・夫婦カウンセラー。

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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

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