不倫慰謝料の請求を無視されたら次にやるべきこと【弁護士解説】

「請求書を送ったのに、まったく返答がない」——そういったご相談を、当事務所では数多くお受けしています。慰謝料を請求した相手が何も応じないまま日数だけが過ぎていく状況は、精神的にも非常に消耗するものです。
ただ、無視されている間も、とりうる手段はあります。この記事では、弁護士名義の通知・民事調停・訴訟・強制執行という段階ごとの選択肢を、それぞれの特徴と注意点とともに、男女問題の受任実績1,000件以上の弁護士が解説します。
慰謝料請求を「無視する」のは相手にとって有利なのか
慰謝料の請求を無視すること自体は、直ちに違法となるわけではありません。ただし、相手方が任意に応じなければ、請求する側は調停や訴訟といった法的手続きへ移行することができます。無視し続けることで、結果的に相手方にとって不利な状況を招くケースも少なくありません。
「無視すれば逃げ切れる」と考える相手方は少なくありません。しかし、法的な観点で見ると、無視という対応には次のような問題があります。
- 法的手続きへの移行を促進する:任意交渉に応じなければ、調停・訴訟へ移行するしかなくなります。結果として、相手方にとって費用・時間・心理的負担が大きくなる可能性があります。
- 訴訟で不利な判決が出やすくなる:訴訟において相手方が欠席や無答弁を続けた場合、相手方の主張を認めたものとして扱われ(擬制自白・民訴159条)、請求どおりの判決が出るケースがあります。
- 裁判費用の負担が発生しうる:訴訟になれば、相手方が敗訴した場合に訴訟費用の一部を負担させる命令が出ることがあります。
つまり、無視は「その場しのぎ」にはなっても、長期的には状況を悪化させる選択になりえます。一方で、請求する側からすれば、相手が無視しているからこそ「次の手段に進む正当な理由」ができるとも言えます。
注意:慰謝料請求権には時効がある
不貞行為に基づく慰謝料請求権の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年です(民法724条1号)。相手が無視を続けていても、この期間は進行し続けます。時効が完成した後に相手方が援用すれば、請求権は消滅してしまいます。
民法724条は、不法行為による損害賠償請求権について、「損害及び加害者を知った時から3年」で時効が完成すると定めています。つまり、不倫の事実と相手方の氏名・連絡先などを知った日から、3年以内に何らかの法的手段をとる必要があります。
なお、不貞行為自体から20年が経過した場合にも請求権が消滅しますが(民法724条2号)、実務上は「知った時から3年」の期限に先に引っかかるケースがほとんどです。
時効を止めるには?
時効の進行を止める(「完成猶予」または「更新」する)方法には、主に以下の手段があります。
| 手段 | 効果 | 備考 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便による「催告」 | 6ヶ月間、時効の完成を猶予できる(完成猶予) | 6ヶ月以内に訴訟等を起こす必要あり |
| 民事調停の申立て | 調停が終了するまで時効完成が猶予される | 不成立で終わった場合も猶予期間あり |
| 訴訟の提起 | 判決確定まで時効は進行しない(更新) | 最も確実な手段 |
請求を無視されたまま時間が過ぎると、知らないうちに時効期間が迫っている可能性があります。時間的な余裕があるうちに、一度弁護士に状況を確認してもらうことをお勧めします。
手段① 弁護士名義の内容証明郵便を送る
個人名義の請求を無視していた相手でも、弁護士名義の内容証明郵便が届いた段階で対応を変えるケースがあります。本格的な法的手続きへの移行が現実味を帯びてきたと判断するためです。費用は比較的抑えられることが多く、最初の法的対応として検討に値します。
内容証明郵便とは、「誰が・誰に・いつ・どのような内容の書面を送ったか」を郵便局が証明してくれる郵便の一形式です。それ自体に強制力はありませんが、弁護士名義で送ることで、相手に「本格的な法的手続きが始まろうとしている」という心理的なプレッシャーを与える効果があります。
内容証明郵便の費用・概要
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 弁護士費用(内容証明作成・送付) | 5万〜10万円程度(事務所・内容によって異なる) |
| 郵便料金 | 数百円〜2,000円程度 |
| 時効への効果 | 催告として6ヶ月間の完成猶予(民法150条) |
内容証明には、慰謝料の請求金額・支払期限・振込先・「期限内に支払いがない場合は法的手続きに移行する」旨を明記するのが一般的です。ただし、請求額・期限の設定は状況次第で変わりますので、内容については、弁護士と打ち合わせながら決めるのが確実です。
それでも相手が無視した場合、または「払わない」という返答があった場合は、次の手段へと移行します。
手段② 民事調停を申し立てる
民事調停は、裁判所の関与のもとで話し合いによる解決を目指す手続きです。訴訟と比べると費用・期間・精神的な負担が少なく、公的な場で交渉の機会を持てます。ただし、相手が応じなければ不成立となるため、強制力はありません。
民事調停の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 簡易裁判所(相手の住所地が原則) |
| 申立費用 | 請求額によって異なる(例:100万円の請求で5,000円程度の収入印紙) |
| 期間の目安 | 申立てから数ヶ月程度(案件の複雑さによる) |
| 弁護士の要否 | 本人申立ても可能。ただし弁護士同行が望ましい場面も多い |
| 成立した場合 | 調停調書が作成され、確定判決と同一の効力を持つ(強制執行も可能) |
民事調停の最大のメリットは、訴訟より費用・精神的負担が小さく、公的な場での交渉ができる点です。調停委員が中立的な立場で双方の話を聞いてくれるため、当事者間だけでは感情が先行して進まなかった交渉が動き出すことがあります。
一方で、相手が調停期日に出頭しない・合意しない場合は「調停不成立」となり、強制的に合意させる力はありません。もし相手が調停を無視・拒否した場合は、次の訴訟へと進むことになります。
手段③ 慰謝料請求訴訟を起こす
訴訟は、裁判所に支払いを命じる判決を求める手続きです。請求額が60万円以下であれば少額訴訟、それを超える場合は通常訴訟を選択します。相手が出頭しなくても審理は進行し、判決が確定すれば強制執行が可能になります。
少額訴訟と通常訴訟の使い分け
| 少額訴訟 | 通常訴訟 | |
|---|---|---|
| 対象金額 | 60万円以下 | 金額上限なし |
| 期日の回数 | 原則1回で終結 | 複数回にわたる |
| 申立先 | 簡易裁判所 | 地方裁判所(140万円超)または簡易裁判所 |
| 費用目安(印紙) | 請求額1万円につき約100円 | 300万円の請求で約2万円 |
| 証拠の扱い | 即時に調べられるものに限定 | 書証・証人尋問なども可能 |
| 相手が移行申述した場合 | 通常訴訟に移行する | — |
不倫慰謝料は一般的に60万円を超えるケースが多いため、通常訴訟が使われることが大半です。少額訴訟は、減額交渉後の残額請求や、関連する費用請求など、金額が小さい場面で活用される場合があります。
証拠が重要になる
訴訟で請求を認めてもらうためには、不貞行為があったことを証明する証拠が必要です。証拠として有効とされやすいものには、以下が挙げられます。
- LINEやメッセージアプリのやりとり(性的な内容・泊まりの約束など不貞を強くうかがわせるもの)
- ホテルへの入室・外出の写真や動画
- 探偵(調査会社)の調査報告書
- クレジットカード明細・宿泊予約の記録
なお、証拠の収集方法によっては、かえって違法性が問われる場合もあります。GPS追跡や無断でのメール閲覧などは、証拠能力の問題だけでなく、別の法的リスクを生じさせる可能性がありますので、収集前に弁護士へ相談することをおすすめします。
判決が出ても相手が自発的に払わない場合は、次の手段——強制執行——へと進むことができます。
判決後も払わない場合——強制執行という手段
判決が確定しても任意に支払わない場合は、強制執行により相手の給与・預金・不動産を差し押さえることができます。ただし差し押さえには相手の財産情報が必要です。財産が不明な場合は、裁判所の財産開示手続きを利用する方法があります。
主な強制執行の種類
| 種類 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 給与差押え | 勤務先から支払われる給与の一部を差し押さえる | 原則として手取り額の4分の1まで(民事執行法152条。手取りが一定額を超える場合は計算方法が異なります)。継続的に回収しやすい |
| 預金差押え | 相手の銀行口座の預金を差し押さえる | 口座情報・金融機関名が必要。残高がなければ回収できない |
| 不動産差押え | 相手名義の不動産を競売にかける | 手続きに時間と費用がかかる。相手に不動産がある場合に有効 |
財産が不明な場合——財産開示手続き
2020年の民事執行法改正により、財産開示手続きの実効性が大きく向上しました。改正前は制裁が軽く、無視されるケースも多かったのですが、現在は正当な理由なく期日に出頭しない・虚偽の陳述をした場合に刑事罰(6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が科せられるようになっています。
また、改正後は第三者からの情報取得手続きも整備され、一定の要件を満たせば、裁判所を通じて金融機関から相手方の預貯金口座に関する情報の開示を求めることができるようになりました。なお、市区町村に対しては住所情報の確認が可能ですが、勤務先情報の照会については養育費・婚姻費用の事件に限られており、不貞慰謝料の請求には利用できません。
相手に財産がない場合のリスクも正直にお伝えします
強制執行はあくまで「相手に差し押さえられる財産がある」ことが前提です。相手が無収入で預金も不動産もないという状況では、判決を得ても実際の回収が困難になるケースがあります。「勝訴できるかどうか」と「回収できるかどうか」は別の問題ですので、訴訟を起こす前に相手の財産状況をある程度見極めておくことも、弁護士との相談では重要な論点になります。
よくある質問
Q.内容証明を送ったのに無視された場合、すぐに訴訟できますか?
法律上、調停や内容証明を経ることなく、いきなり訴訟を提起することは可能です。ただし、訴訟は調停と比べて費用・時間・精神的負担が大きくなります。事案の内容・証拠の状況・相手の属性(財産・仕事の有無など)を総合的に判断したうえで、次のステップを選ぶことをおすすめします。なお、内容証明による催告には「6ヶ月間の時効完成猶予」の効果がありますので、催告後6ヶ月以内に調停または訴訟に進む必要があります。弁護士に相談したうえで、タイミングを逃さないようにしてください。
Q.相手が引越して連絡先がわからなくなった場合でも請求できますか?
相手の住所が不明でも、訴訟を起こすこと自体は可能な場合があります。住民票の職務上請求(弁護士が代理人として取得)によって現住所を調べられるケースがあります。また、住所が判明しない場合でも、「公示送達」という手続きを利用することで、裁判所の掲示板に公示する形で訴訟を進めることが法律上認められています。ただし公示送達は手続きが複雑なため、早い段階で弁護士に相談し、適切な方法を選ぶことが重要です。
Q.無視されている間に時効が来そうで不安です。止める方法はありますか?
まず、内容証明郵便で「催告」を行うことで、6ヶ月間は時効の完成を猶予することができます(民法150条)。ただしこれはあくまで一時的な猶予であり、6ヶ月以内に調停申立てまたは訴訟提起などの手続きをとる必要があります。時効が迫っているという状況であれば、早急に弁護士へご相談ください。時効が完成してしまった後では、相手に時効を援用されると請求権が消滅してしまいますので、時間的な余裕がある段階での対応が非常に重要です。
Q.調停と訴訟、どちらを先にすべきですか?
一般的には、費用・時間・精神的負担の観点から、調停を先に試みるケースが多いといえます。調停で相手が合意すれば、訴訟に比べてはるかに短期間・低コストで解決できる可能性があります。一方で、相手が明らかに話し合いに応じる意思がない場合や、証拠が十分に揃っていてスピーディーな解決を求める場合は、最初から訴訟を選択することも合理的な判断です。どちらが適切かは事案ごとに異なりますので、弁護士との相談を通じて判断することをおすすめします。
Q.相手に財産がなさそうな場合、請求しても意味がありませんか?
現時点で財産がなくても、将来的に収入や財産が生じた段階で回収できる可能性はあります。確定判決があれば、その時効は10年間となりますので、相手の状況が変化したタイミングで強制執行を再試みることも法律上は可能です。ただし、現実的に回収の見込みが低い場合に訴訟費用を投じることが得策かどうかは、冷静に検討する必要があります。弁護士と相談のうえ、費用対効果を含めて判断されることをおすすめします。
Q.配偶者と不倫相手の両方に請求している場合、合計で二倍の慰謝料を受け取れますか?
受け取れません。配偶者と不倫相手は「不真正連帯債務」という関係にあるため、一方から受け取った金額分は他方への請求額が減額されます。たとえば慰謝料総額が200万円の場合、不倫相手から200万円を回収した時点で配偶者への請求は消滅します。二人から合計400万円を受け取ることはできません。なお、一方が全額を支払った場合、その人が他方に対して負担割合に応じた求償を行うことがあります。
不倫慰謝料の請求を無視された場合、早期に法的手段へ移行することが重要です。当事務所では、内容証明の送付から訴訟・強制執行まで一貫してサポートしています。まずは初回相談からお気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料です。
メールフォームでのお問い合わせ
メールフォームでのお問い合わせ








