元保険会社側の弁護士が教える、示談前に知っておくべきこと【交通事故】

交通事故に遭い、治療を続けていると、加害者側の保険会社から「そろそろ示談のご提案をさせていただきたいのですが」という連絡が来ることがあります。
「早く解決したい」「保険会社が言うなら正しいのだろう」——そう思って、提示された金額のまま示談書にサインしてしまう方は少なくありません。
しかし、加害者側の保険会社は、加害者の味方であって、被害者に有利な提案をするということはまずありません。そうであるにもかかわらず、保険会社のいうままに示談に応じてしまうと、原則としてその後に追加請求はできなくなってしまいます。
この記事では、私が元保険会社側として、現在は被害者側の代理人として、多数の交通事故案件を担当していた経験をもとに、「保険会社が示談を勧めてきたときに知っておくべきこと」をお伝えします。
保険会社が提示する金額は「最低ライン」である
交通事故の慰謝料には、大きく分けて3つの基準があります。
| 基準 | 内容 | 金額のイメージ(後遺障害14級の場合) |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 自賠責保険で支払われる最低限の金額 | 32万円 |
| 任意保険基準 | 保険会社が独自に設定している基準 | 約40万円程度 |
| 弁護士基準(裁判所基準) | 裁判で認められる基準。最も高い | 110万円 |
保険会社が示談時に提示する金額は、通常「任意保険基準」で計算されています。この金額は、弁護士基準(裁判所が認める基準)と比べると、数倍の開きがあることも珍しくありません。
保険会社は、被害者が単独で交渉している限り、自ら「弁護士基準」を提示することはほぼありません。弁護士が介入し、法的根拠に基づいた請求を行うことで初めて、保険会社は訴訟リスクを考慮して弁護士基準での支払いに応じる流れになります。
保険会社側の代理人として働いていたとき、私自身もこの基準の使い分けを目の当たりにしてきました。被害者の方に弁護士がついていない案件と、ついている案件では、交渉の進み方がまるで違うのが実情です。
示談前に必ず確認すべきこと
①症状が「固定」されているか
示談の前提として、まず「症状固定」という状態になっていることが必要です。症状固定とは、医学上一般に承認された治療を続けても、これ以上の改善が見込めない状態のことを指しますので、完治したという意味ではないことに注意が必要です。
症状固定前に示談に応じてしまうと、その後も症状が続いたり悪化したりしても、追加の治療費や慰謝料を請求することが原則としてできなくなります。
保険会社から「そろそろ症状固定の時期では」と言われても、まだ痛みや不調が続いているのであれば、主治医に現在の状態を正直に伝えた上で判断してもらうことが大切です。
②後遺障害の申請をしたか
症状が固定されても痛みや不調が残る場合は、後遺障害等級の申請を行うことを検討してください。後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料と逸失利益(将来の収入の損失)が賠償の対象に加わり、受け取れる金額が大きく変わることがあります。
この後遺障害等級の申請も、加害者側が行うか、それとも被害者側が行うかによって、大きな違いがあります。
後遺障害の申請をしなかったり、加害者側保険会社に任せてしまったまま示談してしまうと、後から「やはり後遺障害があった」と思っても、どうしようもありません。「たいしたことない」と自己判断せず、まず申請を検討することをお勧めします。
③提示された金額の内訳を確認したか
保険会社から示談金額が提示された場合、必ず内訳を確認してください。一般的に、交通事故の損害賠償は以下の項目から構成されます。
- 治療費
- 入通院慰謝料(怪我をしたこと・通院したことへの慰謝料)
- 休業損害(事故による収入減の補償/家事への影響)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が認定された場合)
- 逸失利益(後遺障害による将来の収入減の補償)
- 物損(車の修理費など)
これらのうち、一部が計算に含まれていないケースや、計算方法が被害者に不利なケースも見られます。特に「慰謝料」「休業損害」「逸失利益」は計算方法によって金額が大きく変わりますので、注意が必要です。
「治療費の打ち切り」を打診されたら
示談の打診と並んでよくあるのが、「治療費の支払いをそろそろ終了させていただきたい」という打ち切りの打診です。
保険会社には、治療費を打ち切る「権利」があるわけではありません。ただし、任意保険会社が「医学的に治療の必要性がなくなった」と判断した場合、任意に支払いを止めることがあります。
この打診に安易に応じてしまうと、実際にはまだ治療が必要な状態でも通院をやめざるを得なくなり、後遺障害の認定においても「通院期間が短い=症状が軽い」と判断されるリスクがあります。
一般的に、むちうちなどの神経症状で後遺障害の認定を目指す場合、少なくとも6ヶ月以上の継続的な通院実績が必要とされることが多いとされています。これに対し、医学上、3ヶ月で多数の人の治療が終了しているという統計があるのも事実です。打ち切りを打診された場合は、まず弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士費用特約——使わないともったいない制度
「弁護士に頼むとお金がかかる」と思っている方も多いと思います。しかし、多くの方が自動車保険に加入する際、「弁護士費用特約」を付けています。この特約があれば、弁護士費用(一般的に相談料10万円・着手金・報酬金合わせて300万円まで)が保険から支払われますので、自己負担なしで弁護士に依頼できる場合があります。
また、弁護士費用特約を使っても、翌年の保険の等級は原則下がりません(「ノーカウント事故」として扱われます)。保険料が上がる心配もありませんので、特約がある場合は積極的に活用してください。
特に、自分に過失がない「もらい事故」の場合は注意が必要です。もらい事故では、自分の保険会社が示談交渉を代行することが法律上できないため、自分で交渉するしかないのが現状です。そこで、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼することが、適正な賠償を得るための現実的な手段になります。
まずは、ご自身の保険証券を確認してみてください。ご家族の保険についている場合もあります。
後遺障害等級認定——申請方法によって結果が変わることがある
後遺障害の申請には「加害者請求(事前認定)」と「被害者請求」の2つの方法があります。
| 加害者請求(事前認定) | 被害者請求 | |
|---|---|---|
| 手続きの主体 | 加害者側の保険会社 | 被害者(または代理人弁護士) |
| 提出資料 | 保険会社が事務的に用意する | 被害者側が戦略的に収集・精査できる |
| 追加資料の提出 | 被害者に有利な補足資料が加わりにくい | 医師の意見書・画像鑑定など自由に追加できる |
| 自賠責分の受取 | 示談成立まで受け取れないことが多い | 認定後すぐに自賠責分を受け取れる |
「保険会社に任せれば楽」という理由で加害者請求(事前認定)を選ぶ方が多いですが、認定のボーダーライン上にある事案では、被害者側が積極的に資料を揃えて申請する被害者請求の方が、有利な結果につながりやすい場合があります。
どちらを選ぶべきかは個別の事情によりますので、症状固定前後のタイミングで一度弁護士に相談することをお勧めします。
免責証書(示談書)にサインする前に弁護士に相談を
保険会社から送付される免責証書(示談書)にサインしてしまうと、「この示談書に定める以外には何ら債権債務がない」という清算条項によって、後から追加請求をすることが原則としてできなくなります。
示談金額が適正かどうかを判断するためには、専門的な知識が必要です。「これくらいが相場だと言われた」「保険会社の担当者はいい人だから信用している」という理由だけでサインするのは、リスクがあります。
保険会社の担当者は、あくまで保険会社の立場で動いています。被害者の利益を最大化するために動いてくれる立場ではありません。これは担当者個人の問題ではなく、構造的な問題です。私自身がかつてその立場にいたからこそ、はっきりお伝えできます。
免責証書(示談書)にサインする前に、一度弁護士に金額の確認を依頼することをお勧めします。弁護士費用特約があれば費用負担なしで相談できますし、特約がない場合でも、初回相談は無料で承っております。
よくある質問
Q. 事故直後から弁護士に相談した方がいいですか?
できるだけ早い相談をお勧めします。事故直後から弁護士が関与することで、通院のペースや後遺障害診断書の内容、申請方法など、後の賠償額に影響する要素を早い段階から適切に管理できます。「示談の話が来てから」では、すでに不利な状況になっていることもあります。
Q. むちうちでも弁護士に頼む意味はありますか?
あります。むちうちは外見からわかりにくいため、保険会社から「軽傷」として扱われやすい傾向があります。しかし、適切な通院記録と後遺障害診断書の内容によっては、後遺障害として認定される可能性があります。弁護士基準と自賠責基準の差は、むちうちのような「軽傷」とされるケースでも数十万〜100万円以上になることがあります。
Q. 過失割合が争いになっています。弁護士に頼めますか?
もちろんです。過失割合は、受け取れる賠償額に直接影響します。「こちらにも過失がある」と言われても、その割合が適切かどうかは個別の状況によります。事故状況を示すドライブレコーダーの映像や車体の傷跡などが「、過失割合の交渉において重要な証拠になることがあります。
Q. すでに免責証書(示談書)にサインしてしまいました。取り消せますか?
原則として難しい状況です。示談書には清算条項が含まれているため、後から「金額が少なかった」という理由で取り消すことは基本的にできません。
まとめ
保険会社からの示談提案は、焦って応じる必要はありません。示談にサインする前に、少なくとも次の3点を確認してください。
- 症状が本当に固定されているか(まだ治療が必要な状態ではないか)
- 後遺障害の申請をしたか(または申請の必要がないか確認したか)
- 提示された金額の内訳と計算根拠を確認したか
弁護士費用特約があれば費用負担なしで弁護士に依頼できます。特約がない場合でも、初回相談は無料です。「自分のケースで弁護士に頼む意味があるかどうか」だけでも、一度確認してみてください。
弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。
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