自賠責保険と任意保険の違い——過失がある場合は自賠責基準が有利なことも

交通事故に遭ったとき、「自賠責保険」と「任意保険」という2種類の保険が登場します。この2つの違いを正確に理解していないと、保険会社の提示額をそのまま受け入れてしまい、本来受け取れたはずの賠償額を大きく損なう可能性があります。
私はかつて保険会社の代理人弁護士として加害者側を担当し、現在は被害者側の代理人として多数の交通事故案件に携わっています。保険会社は、自賠責保険の仕組みを被害者に丁寧に説明してくれることはほとんどありません。この2つの保険の違いを知っているかどうかが、最終的に受け取れる金額を大きく左右します。
自賠責保険と任意保険——まず全体像を把握する
| 自賠責保険 | 任意保険 | |
|---|---|---|
| 加入義務 | 強制加入(法律上の義務) | 任意加入 |
| 目的 | 被害者保護のための最低限の補償 | 自賠責では補えない部分の補償 |
| 物損への対応 | 対応しない | 対物保険があれば対応 |
| 補償限度額(傷害) | 120万円 | 一般的に無制限 |
| 過失相殺 | 重過失減額制度あり(被害者保護) | 原則通り過失相殺される |
| 保険内容の統一性 | 法令で統一(どの会社でも同じ) | 会社・契約内容によって異なる |
自賠責保険の仕組み
強制加入保険——加害者に資力がなくても最低限の補償が受けられる
自賠責保険は、すべての自動車・バイクの所有者が加入しなければならない強制加入保険です(未加入での公道走行は違法)。「加害者にお金がないから1円も払えない」という事態を防ぐために法律で整備された制度です。
保険内容は法令で統一されているため、保険会社がどこであっても補償内容は同じです。加害者がどこの自賠責保険に加入しているかは、交通事故証明書を見れば確認できます。
重過失減額制度——被害者に過失があっても保護される
自賠責保険の大きな特徴が「重過失減額制度」です。通常の賠償では、被害者に過失がある場合はその割合分が賠償額から差し引かれますが、自賠責保険では被害者保護の観点から、過失の影響が大きく抑えられています。
| 被害者の過失割合 | 後遺障害・死亡部分への影響 | 傷害部分への影響 |
|---|---|---|
| 70%未満 | 減額なし | 減額なし |
| 70%〜80%未満 | 20%減額 | 20%減額 |
| 80%〜90%未満 | 30%減額 | 20%減額 |
| 90%〜100%未満 | 50%減額 | 20%減額 |
つまり、被害者に70%未満の過失があっても、自賠責保険からは満額の補償を受けられる可能性があります。これは被害者にとって非常に大きなメリットです。
【重要】過失がある場合、自賠責基準の方が有利になることがある
多くの交通事故の解説サイトでは「弁護士基準(裁判基準)の方が自賠責基準より高い」と説明しています。これは過失がない場合には正しいのですが、被害者に過失がある場合は必ずしもそうとはいえません。
具体例で確認してみましょう。
【前提条件】むちうち・通院3ヶ月(2日に1回)・治療費50万円・被害者の過失4割
| 弁護士基準(裁判基準) | 自賠責基準 | |
|---|---|---|
| 慰謝料の計算 | 53万円×60%(過失相殺)=31万8,000円 | 90日×4,300円=38万7,000円(重過失減額なし) |
| 治療費の自己負担 | 50万円×40%=20万円の自己負担 | 重過失減額制度により自己負担なし |
| 最終的な受取額 | 31万8,000円-20万円=11万8,000円 | 38万7,000円 |
この例では、自賠責基準の方が弁護士基準よりも約3倍有利という結果になります。
つまり、被害者に過失がある場合、「弁護士に依頼して弁護士基準で交渉する」ことが必ずしも有利とは限らないのです。弁護士費用特約がない場合は特に、費用を払って弁護士に依頼することでかえって手元に残る金額が減る可能性もあります。
この判断は被害者自身が行うのは非常に難しいため、まずは弁護士に相談の上でシミュレーションをしてもらうことをお勧めします。当事務所では、弁護士費用を引くと赤字になりそうな場合は率直にお伝えし、報酬額の調整も行っています。
なお、上記の計算は2020年4月1日以降に発生した事故が対象です。2020年3月末日以前の事故は日額4,200円となりますのでご注意ください。
後遺障害慰謝料——等級に応じた金額が支払われる
後遺障害が認定された場合、自賠責保険から等級に応じた後遺障害慰謝料が支払われます(2020年4月1日以降の事故)。
| 等級 | 後遺障害慰謝料 |
|---|---|
| 別表第1・第1級 | 1,650万円 |
| 別表第1・第2級 | 1,203万円 |
| 別表第2・第1級 | 1,150万円 |
| 別表第2・第2級 | 998万円 |
| 第3級 | 861万円 |
| 第4級 | 737万円 |
| 第5級 | 618万円 |
| 第6級 | 512万円 |
| 第7級 | 419万円 |
| 第8級 | 331万円 |
| 第9級 | 249万円 |
| 第10級 | 190万円 |
| 第11級 | 136万円 |
| 第12級 | 94万円 |
| 第13級 | 57万円 |
| 第14級 | 32万円 |
自賠責保険のデメリット
- 物損は対象外:車の修理代などは1円も支払われない
- 傷害部分の限度額は120万円:治療費・休業損害・慰謝料などを合わせた上限。軽傷でも超えることがある
- 慰謝料の基準が裁判基準より低い(過失がない場合):過失がない場合は弁護士基準の方が高くなる
- 主婦の休業損害が低い:自賠責基準は1日6,100円(2020年4月以降)。裁判基準の1日約1万円程度と比べて低い
任意保険の仕組み
任意保険のメリット
- 物損にも対応:対物賠償保険に加入していれば、車の修理費なども支払ってもらえる
- 120万円の限度額がない:一般的に賠償額は無制限。治療費が高額になっても対応できる
任意保険のデメリット・注意点
任意保険には自賠責保険のような重過失減額制度はなく、被害者に過失がある場合はその割合分が原則通り差し引かれます。
そして最も重要な注意点が、加害者側の任意保険会社は、自賠責保険の仕組みを被害者に説明してくれないという点です。
保険会社は「一括対応」として、被害者に代わって自賠責保険に請求することができます。この仕組みを使うことで、たとえば「治療費含めて賠償額は120万円、治療費を差し引いて慰謝料は38万7,000円です」という提案をしてくることがあります。
自賠責保険の仕組みを知らない被害者は「任意保険会社が120万円を払ってくれるのか」と誤解しがちですが、実際にはこの提案は「任意保険会社は1円も支払いません」と言っているのと同じです。自賠責保険の枠内で処理し、任意保険からの支払いをゼロにしているのです。
保険会社側の代理人として働いていたとき、この構造を間近で見てきました。被害者がこの仕組みを知らないまま示談に応じてしまうケースは、今も多いと感じています。
弁護士に依頼するメリット——「差を埋める」交渉ができる
交通事故で弁護士に依頼する最大のメリットは、保険会社が提示する「自賠責基準の金額」と「本来支払われるべき金額(弁護士基準)」の差を分析し、その差を埋める交渉ができることです。
任意保険会社が自賠責基準を超える金額を自ら提示してくることは、ほとんどありません。弁護士が介入することで初めて、保険会社は訴訟リスクを考慮して弁護士基準での支払いに応じる流れになります。
ただし、前述のとおり、被害者に過失がある場合は、弁護士基準での交渉が必ずしも有利とは限りません。自分のケースでは弁護士に依頼した方が得か、自賠責の枠内で解決した方が得かは、個別の事情によって変わります。
まずは弁護士に相談し、現在の提示額が適切かどうかを確認することをお勧めします。当事務所では、保険会社の提示内容の無料チェックも行っています。
よくある質問
Q. 自賠責保険と任意保険、どちらに請求すればよいですか?
通常は加害者側の任意保険会社が窓口となり、自賠責保険分も含めて一括して対応(一括対応)します。ただし、任意保険会社が倒産している場合や相手が任意保険未加入の場合は、自賠責保険会社に直接請求(被害者請求)することができます。
Q. 相手が任意保険に入っていないと言っています
その場合でも、自賠責保険からの補償は受けられます。ただし、物損への対応や、自賠責の限度額(120万円)を超える損害については、加害者本人への直接請求が必要になります。相手が無保険の場合の対処法については、別の記事で詳しく解説しています。
Q. 保険会社から「これが精一杯の金額です」と言われました
保険会社の提示額が「精一杯」かどうかは、被害者自身では判断が難しいです。特に後遺障害が認定されているケースや、治療費が高額なケース、逸失利益が発生しているケースでは、弁護士基準と任意保険基準の差が大きくなる傾向があります。サインする前に一度弁護士に確認することをお勧めします。
Q. 弁護士費用特約がない場合でも依頼できますか?
依頼できます。ただし、前述のとおり、過失がある場合は弁護士費用を差し引くと手元に残る金額が減る可能性もあります。当事務所では相談時に増額の見込みを率直にお伝えし、費用対効果が見込めない場合は報酬の調整も行っています。まずはご相談ください。
まとめ
自賠責保険と任意保険の違いについてポイントを整理します。
- 自賠責保険は強制加入の最低限補償。重過失減額制度により被害者に過失があっても保護される
- 任意保険は自賠責を超える部分をカバーする。物損にも対応
- 被害者に過失がある場合、自賠責基準の方が弁護士基準より有利になることがある
- 任意保険会社は自賠責の仕組みを被害者に説明しない。「一括対応」で自賠責の枠内のみで処理されていないか確認が必要
- 弁護士への依頼が有利かどうかは個別の事情による。まず相談して確認することが重要
「保険会社の提示額が正しいのかどうかわからない」という段階でのご相談でも歓迎します。まずはお気軽にご連絡ください。
弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。








