求償権の負担割合と計算方法|判例でわかるいくら戻るか【弁護士解説】

慰謝料を全額払い終えたあとで、「あの人(不貞配偶者)にも責任があるはずなのに、どうして自分だけが」という思いを抱えたままになっている。そういうお話を、当事務所の窓口でもよくお聞きします。払い終えてから「そういえば取り戻せると聞いたことがある」と思い出し、いくら戻るのかを調べ始める方は少なくありません。

取り戻せる金額は、あなたと不貞配偶者の「負担割合」によって決まります。出発点は5対5、つまり支払った額の半分ですが、関係の経緯しだいで7対3や9対1と判断された裁判例もあります。ただ、「払った額の全額が戻る」ということは原則としてありません。基礎となる金額が見直されて、実際の回収額が想定より下振れすることもあります。

以下では、男女問題を含めた依頼1,000件以上を扱ってきた立場から、負担割合がどのように決まるのか、計算の仕組みはどうなっているのか、どこに落とし穴があるのかを、実際の裁判例を挙げながらお話しします。

目次

この記事でわかること

負担割合の出発点である5対5という考え方から始めて、相手の負担が重く判断されるケース、逆にご自身の負担が重くなるケースを裁判例とともに見ていきます。そのうえで、「払った額」がそのまま基準になるとは限らない理由と、半額しか払っていない場合に取り戻せない理由についてもご説明します。

なお、この記事は不貞慰謝料を全額支払い済みの方を対象としています。分割の途中・一部のみ支払った方は、対象や考え方が異なりますのでご注意ください。

負担割合の出発点は「5対5」

不倫(不貞行為)は、不貞配偶者とあなたが二人で行った共同不法行為です。被害者に対して二人が連帯して責任を負う関係にあるため、内部での負担割合は5対5が出発点とされています。

当事者が対等な立場で互いの意思で関係を持った事案では、実際に5対5と判断されています(東京地裁令和3年2月5日判決、東京地裁令和5年9月21日判決)。この場合、支払った額の半分が取り戻せる可能性のある目安になります。

不貞配偶者の責任が重くなるケース(7〜9割)

実務では、不貞に及んだ配偶者が第一次的に責任を負うべきであり、損害への寄与は原則として不倫の相手方を上回るとされています(東京地裁平成16年9月3日判決)。あなたが次のような立場だったときは、相手の負担割合がさらに上がる方向に動く場合があります。

相手から誘われた・関係を主導された

不貞配偶者が「結婚したい」などと言って積極的に関係を発展させ、誘い込んだ事案では、不貞配偶者7割:あなた3割と判断された裁判例があります(東京地裁令和3年2月25日判決、東京地裁平成16年9月3日判決)。

相手が既婚であることを隠していた

既婚者が独身と偽って交際を続けた事案では、不貞配偶者8割5分:あなた1割5分とされた例があります(東京地裁令和3年8月30日判決)。婚活サイトで独身を装っていた事案では、求償できる範囲を支払額の9割とした例もあります(東京地裁平成31年1月18日判決)。

相手に主導・強要された

不貞配偶者が暴力や脅迫を用いて関係を主導した事案では、不貞配偶者9割:あなた1割とされ、支払額のほぼ全額に近い求償が認められた裁判例があります(東京地裁令和4年10月24日判決)。

あなたの状況不貞配偶者の負担割合(目安)主な裁判例
対等な関係・互いの意思で5割東京地裁 R3.2.5・R5.9.21
相手から誘われた・主導された7割東京地裁 R3.2.25・H16.9.3
相手が既婚を隠していた8割5分〜9割東京地裁 R3.8.30・H31.1.18
暴力・脅迫で主導された9割東京地裁 R4.10.24

逆に、あなたの負担が重くなるケース

一方で、あなたが積極的に関係を主導していた、相手が既婚であることを十分知りながら深く関わっていた、といった事情があれば、あなたの負担割合が5割を超え、取り戻せる額が半分を下回ることもあります。

「負担割合は、どちらがどれだけ関係に責任があったかで動く」。これが実務の原則です。初回相談では、関係の経緯を正直にお聞かせいただくことが、見通しを正確に出すために必要です。

「払った額」がそのまま基準になるとは限りません

求償の計算の基礎になるのは、あなたが実際に払った示談額そのものではなく、「不貞そのものに対する客観的な慰謝料額」です。これは必ず押さえておきたい点です。

「早く終わらせたくて、相場より高めの金額で示談した」「相手(被害者)の事後の対応が厳しく、慰謝料が上乗せされた」。このような事情があると、裁判所はその上乗せ分を差し引いて、基礎となる金額を見直すことがあります。

実際に、287万円を支払った事案で「不貞そのものの慰謝料は高くても100万円」と評価し、求償できるのは50万円とした裁判例(東京地裁令和5年9月21日判決)や、250万円を支払った事案で基礎額を100万円とし、求償50万円とした裁判例(東京地裁令和3年2月5日判決)があります。

「300万円払ったから、半分の150万円が取れる」とは単純に決まりません。あなたのケースでいくらが基礎になるかは、個別に判断する必要があります。

半額しか払っていないと、求償できません

「払った金額の半分は戻ってくるはず」と思っていた方には、ここは意外に感じられるかもしれません。求償できるのは、あなたが「自分の負担部分を超えて」支払った分だけです(最高裁判所昭和63年7月1日判決 民集42巻6号451頁)。

たとえば、負担割合が5対5なのに慰謝料の半額しか払っていない場合、あなたは自分の負担部分しか払っていないことになり、超過分がないため求償できません。和解で半額のみを支払った方の求償請求が認められなかった裁判例があります(東京地裁平成25年6月19日判決)。

当事務所の「求償リカバリー」が慰謝料を全額支払い終えた方を対象としているのは、この理由からです。

取り戻せる額の計算例(5対5・7対3の比較)

出発点の「5対5」と、相手の責任が重く評価された「7対3」で計算すると、次のような金額感になります。あくまで目安であり、基礎額の見直しや相手の資力によって変わる場合があります。

支払い総額5対5の場合(目安)7対3の場合(目安)
100万円50万円70万円
150万円75万円105万円
200万円100万円140万円
300万円150万円210万円

誘われた側・欺かれた側であれば、相手の負担が7〜9割と評価された裁判例もあり、表より増える可能性があります。一方で、基礎額の見直しや相手の資力によって下振れすることもあります。特定の金額を保証するものではありません。

よくある質問

負担割合は裁判所が決めるのですか?

訴訟になれば裁判所が判断します。ただし求償リカバリーでは、裁判例をもとに算定した見込み額を提示したうえで、相手方(不貞配偶者)に対して訴訟を起こす方法で進めます。相手が任意に応じることは少ないため、訴訟が基本的な手続きになります。

示談書に求償権放棄の文言があった場合はどうなりますか?

被害者(相手の配偶者)との示談書に「求償権を放棄する」と明記されていた場合、原則として求償できなくなります。合意書・示談書の内容は、ご相談の際に必ず確認させてください。

相手(不貞配偶者)がお金を持っていない場合はどうなりますか?

判決を取っても、相手に資力がなければ回収は困難になります。相手の収入・財産状況は、見込みを判断するうえで重要な要素です。初回相談でわかる範囲の情報をお聞かせください。

求償権に時効はありますか?

あります。求償権は「一般の債権」として扱われ、時効は慰謝料を支払った時から5年です(民法166条1項)。「不倫がバレた時」や「示談した時」から数えるものではありません。「もう時効かも」と思う方も、まず間に合うか確認することをおすすめします。

費用はいくらかかりますか?

求償リカバリーの費用は、着手金11,000円(税込)・報酬は回収額の20%+110,000円(税込)です。着手金を抑えて成功報酬型に近い設計にしています。詳細はサービスページをご覧ください。

まとめ

負担割合の出発点は5対5です。支払った額の半分が取り戻せる目安になります。ただし、多くのケースで不貞配偶者の責任の方が重くみられます。誘われた・既婚を隠された・主導されたケースでは7〜9割とされた裁判例もあります。あなたが主導していた事情があれば、半分を下回ることもあります。

ポイント内容
出発点5対5(半額が目安)
相手の負担が増えるケース誘われた・既婚を隠された・主導された(7〜9割の裁判例あり)
あなたの負担が増えるケースあなたが積極的に主導していた事情がある
基礎額の注意払った額そのものでなく「不貞の客観的な慰謝料額」が基準になる
全額払い済みが前提半額しか払っていないと求償できない(最判昭63.7.1)

「自分のケースでいくら取り戻せそうか」は、関係の経緯と示談の内容しだいで大きく変わります。まずは見込みを確認するところから始めてみてください。そこがはっきりするだけでも、動くかどうかの判断はぐっとしやすくなります。

この記事を監修した弁護士

小林 聖詞(こばやし さとし)/東京弁護士会(登録番号51560)

東京都港区新橋3-2-3 千代川ビル4階

男女問題を含めた1,000件以上の案件に対応。不貞慰謝料・離婚を数多く手がけています。JADP認定メンタル心理カウンセラー・夫婦カウンセラー。

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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
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