交通事故において登場する保険として一般的なものは、いわゆる「自賠責保険」と「任意保険」になります。
強制加入保険、つまり、車を持っている人であれば必ず加入していなければいけない保険が「自賠責保険」です。
これに対して、CMなどでよく宣伝をしていたり、普段目にする保険の方は「任意保険」となります。
しかし、被害者の多くの方が、この「自賠責保険」と「任意保険」の違いを理解されていません。
その結果、賠償額等で大きな損をしてしまっている(=任意保険会社が得をしている)というのが現状です。
また、交通事故で弁護士に依頼するメリットというのは、弁護士こそが、その保険の違いを正しく理解し、どの点に増額の余地があるかを分析し、被害者に代わって交渉することができるから、ともいえます。
そこで、本稿では、自賠責保険と任意保険の違い、そこから生まれる弁護士に依頼するメリットについて説明します。
自賠責保険
強制加入保険である
自賠責保険のキーワードは、「被害者保護のために作られた、強制加入保険」である、ということです。
強制加入保険とは、ようは、自動車やバイクの所有者は、必ず加入しなければならない保険、ということです。
「加害者の運転手に全くお金がないから、被害者には1円も払われませんでした」というようなことがないように、法令で作られた制度になります。
そして、これは法令に基づくものですから、保険会社がどこの会社であろうと、内容は変わりません。
また、交通事故証明書を見れば、加害者がどこの自賠責保険会社に加入しているのか、一目でわかります。
重過失減額制度
自賠責保険の特徴の一つとして、「重過失減額制度」というものがあります。
これは、被害者保護の観点から、被害者に一定程度過失があったとしても、これをゼロとして扱ってくれる、というものです。
過失のある・なしでは、賠償額に大きな違いが生まれますので、この制度は被害者には大変ありがたいものになります。
重過失減額制度の適用について、厳密には、以下のようになります。
過失割合 | 後遺障害・死亡部分 | 傷害部分 |
70%未満 | 減額なし | 減額なし |
70%~80%未満 | 20%減額 | 20%減額 |
80%~90%未満 | 30%減額 | 20%減額 |
90%~100%未満 | 50%減額 | 20%減額 |
このように、加害者に過失が1%でもある場合、被害者は自賠責保険からかなりの恩恵を受けることができます。
裁判基準より慰謝料が高くなることもある
交通事故に関するほとんどのホームページが、「自賠責保険よりも弁護士基準(裁判基準)の方が有利」だと記載していますが、それは、この重過失減額制度を無視しています。
たしかに、過失がなければ、弁護士基準の方が高くなるのですが、被害者に過失がある場合は、必ずしもそうとはいえません。
具体例を提示します。
(例)
・交通事故でむちうちの症状になった
・通院3ヶ月(通院頻度は2日に1回)で終了
・治療費は50万円
・被害者に過失が4割ある場合
この場合、いわゆる裁判基準では
53万円×60%=31万8000円
となるのに対し、自賠責基準では、
90日×日額4300円=38万7000円となります。
(事故日が2020年3月末までの場合は、日額4200円となるので、注意が必要です。)
このように、単純な慰謝料計算だけでも、自賠責基準の方が、裁判基準より有利な場合があるので、注意が必要です。
さらに、最終的に受け取れる金額を計算していきましょう。
上の例では、裁判基準(弁護士基準)の場合、治療費50万円のうち、40%の20万円は、自己負担となります。
その一方、自賠責基準の場合は、治療費にも重過失減額制度がありますので自己負担はゼロとなります。
その結果、最終的に被害者が受け取れるトータルの金額は
・裁判基準(弁護士基準)・・・31万8000円ー20万円=11万8000円
・自賠責基準・・・・・・・・・38万7000円 となります。
すなわち、上の具体例であれば、自賠責の方が、裁判基準よりも、3倍も有利なのです。このような場合で、弁護士特約に加入されていないのであれば、敢えて弁護士に依頼するメリットはあまり見出せません。
もっとも、この判断を被害者自身で行うのは大変難しいです。
そこで、本サイト経由でご相談いただいた場合でしたら、過失がある事故の場合であれば、赤字になるリスクがあるか同課の説明をしっかりさせていただきますし、弁護士費用を引くと赤字になりそうなことが予め想定される場合は、報酬額の調整もさせていただきます。
まずは、お気兼ねなくお問合せいただければと思います。
後遺障害慰謝料等も支払われる
また、自賠責保険の場合、後遺障害が認定されると、それだけで、等級に応じて自賠責保険から以下の慰謝料が支払われます。一般的には、慰謝料だけではなく、支払満額が支払われることになるケースが多いです。
2020年4月1日以降に発生した事故はこちら
障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
別表第1 | |
第1級 | 1,650万円 |
第2級 | 1,203万円 |
別表第2 | |
第1級 | 1,150万円 |
第2級 | 998万円 |
第3級 | 861万円 |
第4級 | 737万円 |
第5級 | 618万円 |
第6級 | 512万円 |
第7級 | 419万円 |
第8級 | 331万円 |
第9級 | 249万円 |
第10級 | 190万円 |
第11級 | 136万円 |
第12級 | 94万円 |
第13級 | 57万円 |
第14級 | 32万円 |
2020年3月末日までの事故の場合はこちら
障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
別表第1 | |
第1級 | 1,600万円 |
第2級 | 1,163万円 |
別表第2 | |
第1級 | 1,100万円 |
第2級 | 958万円 |
第3級 | 829万円 |
第4級 | 712万円 |
第5級 | 599万円 |
第6級 | 498万円 |
第7級 | 409万円 |
第8級 | 324万円 |
第9級 | 245万円 |
第10級 | 187万円 |
第11級 | 135万円 |
第12級 | 93万円 |
第13級 | 57万円 |
第14級 | 32万円 |
自賠責保険のデメリット
次に、自賠責保険の弱い点を説明します。
自賠責保険は、どうしても「最低限の保障」になるため、全部が全部賠償されるものでもない、という特徴があります。
1 物損が全く対応されない
車の修理代などの「物損」は、対象外ですので、1円も支払われません。
2 限度額がある
自賠責保険の場合、傷害部分の限度額は「120万円」になります。
120万円もあれば十分だと思うかもしれませんが、これは、治療費、休業損害、慰謝料など、後遺障害に関係するもの以外の全部の費用になります。
ちょっとした事故でも、治療費等を全部足していくと、120万円を超えてしまうことはよくあります。
また、後遺障害についても、限度額があります。こちらは、自賠責基準の記事にて別途説明していきます。
3 慰謝料の基準が低い
自賠責保険の場合、慰謝料は、通院日数・通院期間に応じて決められますが、どうしても、裁判基準に比べれば、ベースの金額は低くなります。
重過失減額の点で説明した例でも、被害者に過失が無い場合なら
裁判基準(弁護士基準)
・・・53万円
自賠責基準
・・・38万7000円
ですから、裁判基準の方が高額になります。
4 主婦休損の基準も低い
主婦業も、立派なお仕事です。交通事故だと、「賃金センサス」という基準を用いて、主婦業を年収に換算するといくらか、という計算をします。2018年の場合ですと、382万6300円になると言われています。1日あたりで換算すると1万0483円です。
これに対して、自賠責保険の場合は、1日6100円(2020年3月末までの事故は、1日5700円)になります。
なお、この記事で、よく、2020年3月末までの事故は、という言葉が出てきます。実は、自賠責保険の基準が、事故日が2020年4月1日以降を基準に、かなり大きく変わりました。
いまでも、事故日について触れずに、休業損害が1日5700円と説明しているホームページがあるとすれば、もう古い情報をそのまま掲載してしまっていることになります。
任意保険
任意保険というのは、自賠責保険ではカバーできない部分についても支払う保険だとお考え下さい。
任意保険については、保険会社がどこであるかや、内容によって、全然話が違ってきますので、ここでは自賠責保険との比較に留めます。
メリット
物損も対応している(対物保険)
加害者が対物保険に加入していれば、物損も支払ってもらえます。
120万円という限度額はない
一般的には、賠償額は無制限、とされています。
ただ、ごくまれに、賠償額を1000万円まで、とすることで、保険料を少なくしているところもあるので、注意が必要です。それでも、120万円ということはありません。
デメリット
過失については、原則通り考慮される
任意保険には、自賠責保険のような「重過失減額制度」はありませんから、被害者に過失がある場合は、その分、マイナスになります。
保険会社の担当者が、被害者に、自賠責保険の仕組みを説明してくれない
加害者側の保険会社は、被害者に対して、自賠責保険の仕組みなどは、全くと言っていいほどしてくれません。
どういうことでしょうか?
実は、保険会社も、普通の会社と変わらない、株式会社です。
つまり、普通の会社と同じように、できるだけお金を稼ごうとしますから、少しでも支払いを抑えたいのです。
そして、保険会社は、「一括対応」ということで、被害者に代わって、自賠責保険に請求することができます。
これで、どういうことが起きるかというと、例えば、怪我をしたけれど、後遺障害はなかった、という場合に、「治療費含めて賠償額は120万円、治療費は差引いて慰謝料は38万7000円です」なんて案内をされたりします。
これ、自賠責保険の仕組みを知らなかったら、任意保険会社が120万円を払ってくれるのかと誤解してしまいます。
しかし、この提案は、「任意保険会社は、結局、1円も支払いません」と言っているのと同じなのです。
でも、任意保険会社の担当者は、そういう説明をしません。その結果、慰謝料で38万円もらえるなら、と、何も気づかずに示談してしまうのです。
交通事故で弁護士に依頼すべき理由
交通事故の被害に遭われた場合、まず、弁護士には必ず相談すべきです。
それは、結局、被害者自身では、「相手保険会社(任意保険会社)の言っていることは正しいのだろうか?」という判断をすることが、極めて難しいからです。
交通事故が得意な弁護士であれば、何が正しくて、何が正しくないのか、簡単に説明をすることができます。
そして、相談だけではなく、弁護士に依頼するメリットは、
任意保険会社が、ここまで説明してきた「自賠責保険」と同じ基準で賠償額を提示する
というところにあります。
繰り返しになりますが、「自賠責保険」は、あくまでも、最低限の基準です。本来、任意保険会社は、自賠責保険の基準を支払えばよい、というものではありません。
しかし、被害者側は、それを知りませんし、任意保険会社もそれを教えませんので、つい、保険会社の言っていることは正しいだろう、と思ってしまうのです。
弁護士は、その点をしっかり分析し、被害者側の視点から、
自賠責保険の基準(相手方保険会社の提案)と、本来支払われるべき金額に、どれだけ差があるか
を把握し、
その差を埋める=被害者が本来受け取ることができる金額を受け取れるようにする
という交渉を行うのです。
任意保険会社が、自賠責保険の基準以外で提案することはまずありません。およそ全ての事故で、そのような最低限の提案がなされています。
ですから、本来取得できる金額と差がある=弁護士に交渉を依頼するメリットがあるのです。
当サイト経由のご相談では、相手方保険会社の提案に対する無料チェックも行っていますので、ぜひご活用ください。
まとめ
自賠責保険は、被害者保護を目的とした強制加入保険である
自賠責保険には、重過失減額制度というメリットがある
任意保険には、自賠責保険のような120万円という限度額はない
自賠責保険の基準(相手方保険会社の提案)と、本来支払われるべき金額には差がある
その差を埋められるのが弁護士なので、依頼するメリットがある
少しでも被害者が報われる結果になるよう、当職も誠意対応してまいります。
弁護士 小林 聖詞