交通事故の被害に遭われて病院で治療を受ける際、健康保険の使用を拒否されるケースがあるようです。
しかし、結論からいうと、原則、交通事故のケガに対し、健康保険は適用できます。
その上で、大事なのは、「どのタイミング」で使うべきなのか、使うとどうなるのか、ということです。
今回は、そんな健康保険にまつわる話を解説していきます。
交通事故の通院のために健康保険を利用することは「できる」
交通事故の通院、治療のために健康保険を利用できることは、厚生労働省の通達に明記されています。
犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法…(中略)において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。
厚生労働省平成23年8月9日付け保保発0809第3号,保国発0809第2号,保高発0809第3号
したがって、健康保険を使えることは明らかですから、「交通事故」であることを理由に、病院が健康保険をの利用を拒否することはできません。
健康保険が使えない例外的な場合
それでも使えない例外的な場合というのが、労災が使える場合です。
この場合、手続きは面倒になりますが、労災の場合、治療費を全額対応してもらえる、というメリットがありますので、被害者からすると、健康保険が使えないからといって、特段不利になるわけではありません。
健康保険を利用する手続き・方法
まずは、病院の窓口で健康保険を使いたい旨お伝えしましょう。
場合によっては、健康保険組合から「第三者行為による傷病届」の提出を求められることがあります。
こちらは、事後的な提出でも構いません。
なかには、加害者に書いてもらう同意書などが含まれていたりしますので、どうするか、相手方保険会社に確認してみましょう。
健康保険を使うデメリット
健康保険を使えるからといって、常時使用したほうがいいというわけではありません。
健康保険を使用することには、以下のようなデメリットもありmさう。
① 一括対応が拒否される可能性がある
健康保険を利用すると、一括対応が拒否される場合があります。
病院の手間がかかるため、病院の方から、健康保険を使うなら、一括対応は難しいかもしれない、という打診がある場合があるのです。また、保険会社も、同じく手間が増えますので、健康保険を使うなら一括対応しない、と言ってくる可能性があります。
このように、一括対応が打ち切られるリスクがあるので、一括対応中に使う場合は、必ず事前に保険会社に確認しましょう。
② 手間や時間がかかるようになる
また、健康保険を利用している場合、病院から、診療報酬明細書という、請求に必要な書類が出てこず、別途、健康保険組合に開示をお願いしないといけない場合があります。
この診療報酬明細書がないと、治療費の証明ができないので、交渉をはじめられないのです。
③ 健康保険外の治療・施術が受けられなくなる可能性がある
健康保険は、どんな治療・施術に使えるわけではありません。
よく、美容系のCMで「保険適用外です」と言っているのを聞いたことはありませんか?
そう、治療や施術の中にも、健康保険が利用できるものと、利用できないものがあるのです。
特に、難病の場合は、健康保険が利用できないケースがありますので、健康保険を使うときは、必ずお医者さんに確認してからにしましょう。
健康保険を利用すべきタイミング
では、健康保険に切替するタイミングはいつになるでしょうか。
結論としては、
1 自分に過失があることがはっきりしたとき
2 打ち切りにあったとき
の2点であると考えます。
① 自分に過失があることがはっきりしたとき
自分に過失がある場合は、健康保険を利用することで、治療費が減額され、その分、最終的にもらえる示談金が増える可能性が高いのです。
例えば、過失が3割ある場合(7:3)で、健康保険を使わないと、治療費が60万かかっていた、という場合、そのうち被害者が負担する金額は
60万円×30%=18万円
となります。
これに対して、健康保険を利用して、治療費を3割に抑えられたという場合、被害者が負担する金額は
60万円×30%×30%=5万4000円
となります。
つまり、健康保険を使うか否かで、10万円以上も、獲得できる金額に差が発生するのです。
ですから、自分に過失があることが分かったタイミングが、健康保険に切り替えるいいタイミング、ということになります。
② 打ち切りにあったとき
もう一つのいいタイミングが、相手方保険会社から、一括対応の打ち切りにあったときです。
打ち切りの場合、少なくともひとまずは治療費を自分で負担しなければなりません。また、その自己負担した治療費を、後で相手保険会社に請求し、支払ってもらえるかは、その時になってみないとわかりません。
そのため、仮に、自己負担となってしまったとしても、その金額を少しでも抑えるべく、健康保険を利用する、というのが有効なのです。
基本的に、被害者に過失がなくても、打ち切り後も通院したいということであれば、十分に健康保険を利用するメリットがあるといえます。
まとめ
・交通事故のケガで、健康保険は原則として利用できる
・健康保険を利用することで、デメリットが生まれることもある
・利用するタイミングは、自分に過失があることがはっきりしたときと、打ち切りにあったとき
ただ、健康保険を利用するか悩む問題が起きた時点で、順調には進んでいないといえます。
そのような段階にいらっしゃるのであれば、すぐに当サイトからお問合せください。
最適な解決策を一緒に思考できればと思います。
弁護士 小林 聖詞