示談書を受け取ったら確認すべき5つのポイント|弁護士解説

「保険会社から示談書が届いたけど、このままサインしていいの?」「金額に納得できないけど、急かされている」——こんな不安を感じていませんか。

示談書(免責証書)にサインした瞬間、原則としてその内容は確定します。後から「金額が少なかった」「後遺症が残った」と気づいても、覆すことは極めて困難です。

この記事では、かつて保険会社の代理人弁護士として加害者側を担当し、現在は被害者側の代理人として多数の交通事故案件に携わっている弁護士が、示談書にサインする前に必ず確認すべき5つのポイントと、保険会社が示談を急かす理由を解説します。

目次

示談書とは何か?法的効力を正しく知る

示談書(正式名称:示談書・免責証書・承諾書・合意書など保険会社によって異なる)は、民法上の「和解契約」(民法695条)にあたります。一度成立した和解を後から蒸し返すことは、原則として認められません。さらに、ほぼ必ず「清算条項」が入っており、示談書に記載された賠償金以外の請求は将来にわたって一切できなくなります。示談書の法的効力は想像以上に重いものです。

「清算条項」の意味を理解する

示談書には、ほぼ必ずと言っていいほど以下のような文言が入っています。

「甲(加害者側)と乙(被害者)との間には、本件事故に関し、上記条項のほか、何らの債権債務も存在しないことを確認する。」

これが清算条項です。この一文があることで、示談書に記載された賠償金以外の請求は、将来にわたって一切できなくなります。治療費・慰謝料・逸失利益・後遺障害に関する請求も、すべて「解決済み」として処理されます。

示談書にサインする前に確認すべき5つのポイント

確認事項リスク
① 症状固定前のサインに注意後遺症が出ても追加請求できなくなる
② 賠償項目の内訳を確認本来もらえる項目が含まれていない可能性
③ 過失割合に納得しているか割合が10%変わると賠償額に大きな差が出る
④ 異議申立て放棄条項がないか後遺障害等級認定への異議ができなくなる
⑤ 弁護士基準と比較しているか保険会社提示額は弁護士基準より大幅に低いことが多い

① 後遺症が出る可能性がないか(症状固定前のサインに注意)

最も危険な落とし穴のひとつが、本来は症状固定前であるにもかかわらず、相手方保険会社の打ち切りに従い、そのまま示談書へサインしてしまうことです。「症状固定」とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態になったと判断される場合のことです。症状固定の前にサインすると、その後に後遺障害が残ったとしても、原則として追加で請求することができなくなります。

むちうち(頸椎捻挫・腰椎捻挫)は、しびれや痛み等の症状が慢性化するケースがあります。治療の途中で「だいぶ良くなったので示談にしませんか」と打診されても、まだ治療中であれば応じてはいけません。主治医から「症状固定」の診断を受けた後に示談することが重要です。

② 慰謝料・逸失利益・治療費が全て含まれているか

示談書に記載されている金額が何を含んでいるのか、必ず項目ごとに確認しましょう。

損害項目内容
治療費通院・入院にかかった医療費
交通費通院のための交通費
休業損害事故によって働けなかった期間の収入補填
入通院慰謝料入院・通院期間に応じた精神的苦痛への補償
後遺障害慰謝料後遺障害等級に応じた補償
逸失利益後遺障害により将来の収入が減少する部分

保険会社から提示される示談書では、これらが「示談金〇〇万円(全損害の解決金として)」のような形でまとめて記載されることがあります。内訳が不明なまま合意してしまうと、本来もらえるはずの項目が含まれていない可能性があります。

③ 過失割合に納得しているか

示談書には、事故における双方の過失割合も記載されます。この過失割合が最終的な賠償金額に直接影響します。過失割合が「被害者2:加害者8」と記載されている場合、被害者は自分の過失分(20%)を差し引かれた金額しか受け取れません。100万円の損害であれば、受け取れるのは80万円から、相手の損害額の2割を差し引いた金額です(過失相殺)。

保険会社が提示する過失割合は、必ずしも正しいとは限りません。ドライブレコーダーの映像・目撃者の証言・事故現場の状況などを踏まえ、適切な割合かどうかを検討する必要があります。

④「異議申立て放棄条項」が入っていないか

示談書の中には、後遺障害の等級認定結果に対して「異議を申し立てない」旨の条項が盛り込まれているケースがあります。後遺障害の等級認定(自賠責保険の調査事務所による認定)は、初回の申請結果に納得できない場合、異議申立てによって再審査を求めることができます。しかし示談書でこの権利を放棄させる条項に署名してしまうと、異議申立てができなくなる可能性があります。

⑤ 金額は弁護士基準と比べて適正か

保険会社が提示する示談金は、多くの場合「任意保険基準」という保険会社独自の基準で計算されています。裁判所が採用する「弁護士基準(裁判基準)」と比べると、大幅に低い金額になることがほとんどです。

基準特徴金額イメージ(通院慰謝料・むちうち6か月・1週間に1回通院した場合)
自賠責基準最低限の保障223,600円
任意保険基準保険会社独自・非公開自賠責と同じか、若干高い程度
弁護士基準(裁判基準)裁判例に基づく適正額890,000円(目安)

弁護士が介入することで、保険会社も「裁判になれば弁護士基準で判決が出る」と認識するため、交渉で弁護士基準に近い金額を引き出せるケースが多くあります。

保険会社が示談を急かす理由——元保険会社側弁護士の視点から

「早めに示談していただければ、お手続きがスムーズです」「今月中にご回答いただけると助かります」——こうした言葉をかけてくる保険会社の担当者は珍しくありません。理由は主に3つあります。

  1. 被害者が弁護士に相談する前に合意を取りたい——弁護士が介入すると弁護士基準で交渉されるため、支払い額が増える可能性があります。
  2. 後遺障害が顕在化する前に処理したい——症状固定の前に示談が成立すれば、後から後遺障害慰謝料や逸失利益を請求されるリスクがなくなります。
  3. 担当者の業務負荷軽減——案件を早期解決することが業務効率の観点から有利な場合があります。

保険会社からの示談の打診を受けたときは、一度立ち止まって弁護士に相談することを強くおすすめします。

示談書にサインした後で覆すことはできるか?

原則として、成立した示談を覆すことは極めて困難です。ただし、例外が認められるケースがあります。

例外1:詐欺や強迫があった場合。保険会社の担当者が虚偽の説明をして署名させた(詐欺)、または脅迫的な言動でサインを迫った(強迫)と認定できる場合、民法96条に基づき示談を取り消せる可能性があります。

例外2:錯誤があった場合。示談時点では予測できなかった重大な後遺障害が後から生じた場合、「後遺障害の発生について錯誤があった」として示談の効力を争う余地があります。示談書に「将来、後遺障害が生じた場合は別途協議する」旨の留保条項があれば、それを根拠に請求できる場合があります。

ただ、基本的ンい、このような例外の主張は通りません。最善の方法は、サインする前に弁護士に相談することです。

よくある質問(FAQ)

示談書と免責証書は違うのですか?

名称は保険会社によって異なりますが、法的な性質は同じです。「免責証書」「示談書」「和解書」「合意書」いずれも、交通事故の賠償問題について当事者が合意した内容を書面化したものであり、サインすれば拘束力が生じます。

示談書にサインする前に弁護士に相談してもいいですか?

むしろそれが最も望ましいタイミングです。示談書を受け取った段階で弁護士に相談すれば、金額の適正評価・条項の精査・必要に応じた追加交渉まで対応できます。「サインしてしまった後」では選択肢が大きく狭まります。

保険会社から「これ以上は増額できない」と言われました。本当ですか?

そのままにしなくて大丈夫です。保険会社が提示する金額は交渉の出発点であることが多く、弁護士が介入することで増額されるケースは非常に多くあります。「増額できない」という言葉を鵜呑みにせず、一度弁護士に確認することをおすすめします。

示談書に署名した後、後遺障害が判明しました。どうすればいいですか?

示談成立後の請求は原則として困難ですが、示談書に「後遺障害が生じた場合の留保条項」が入っているかどうかを確認しましょう。留保条項がある場合は追加請求できる可能性があります。また示談成立の経緯に詐欺・強迫・重大な錯誤がある場合は、取り消しを争う余地もあります。まず弁護士にご相談ください。

まとめ

  1. 症状固定の前にサインしない——後遺症が出る前に示談を急かされても応じない
  2. 賠償項目の内訳を確認する——慰謝料・逸失利益・治療費等が全て含まれているかを確認する
  3. 過失割合に納得してからサインする——根拠が不明な場合は交渉する
  4. 異議申立て放棄条項がないか確認する——後遺障害認定に関わる権利を放棄させる条項に注意する
  5. 弁護士基準と比較する——保険会社の提示額は弁護士基準より大幅に低いことが多い

示談書を受け取ったら、サインの前に一度弁護士に相談しましょう。弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。

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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

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