交通事故で全損と言われても諦めない——時価・修理費の交渉方法を弁護士が解説

交通事故で全損と言われても諦めない——時価・修理費の交渉方法を弁護士が解説

「全損と言われたので、もう交渉できないと思っていた」——そんなご相談をいただくことがあります。しかし、全損と言われても、賠償額の交渉ができる場合があります。また修理費についても、保険会社との間でトラブルになるケースは意外と多いです。

私はかつて保険会社の代理人弁護士として加害者側を担当し、現在は被害者側の代理人として多数の交通事故案件に携わっています。物損・修理費の交渉は「人身に比べて軽い問題」と思われがちですが、金額的に大きな争いになることも少なくありません。保険会社が提示する金額をそのまま受け入れる必要はありません。

目次

修理費をめぐるトラブル——3つのパターン

修理費は、修理業者が発行した見積書を保険会社に提示し、協議(「協定」)が成立すれば支払われます。協定が成立すれば争いになることは少ないですが、成立しない場合にトラブルになりやすいポイントは主に以下の3つです。

①修理範囲の争い——「その傷は事故と関係ない」と言われた

賠償の対象になるのは、事故と因果関係のある損傷のみです。保険会社から「その傷は事故前からあったものではないか」と言われるケースがあります。

この判断は、相手方車両の損傷箇所と高さが一致しているか、事故状況に即した方向からの損傷かどうかなどから行われます。一見ではわかりにくく、争いになることがあります。

②修理内容の争い——「板金修理でいい」「部品交換が必要」

損傷部分を板金修理で済ませるか、部品交換が必要かについて、保険会社と修理業者の意見が食い違うことがあります。この場合、修理業者に詳細な説明をしてもらった上で、双方の主張を調整する必要があります。

なお、事故でタイヤホイールが1つだけ損傷して交換が必要になった場合、同じデザインが廃番になっていて他の3本と揃わなくなるケースもあります。このような場合でも、残り3本の無傷のホイール分まで賠償が認められることは基本的にありません。

③金額の単価の争い——修理範囲・内容は合意できたが金額が違う

修理範囲・内容には問題がないのに、工賃などの単価だけが争いになることがあります。裁判所では、「自研センター方式」による単価の算定を信頼する傾向があります。見積書を確認すると自研センター方式かどうかがわかりますので、気になる方はお手元の見積書を持ってご相談ください。

「修理しないと修理費は払わない」は間違い

「実際に修理しないと修理費を請求できないのでは」とご質問をいただくことがあります。しかし、修理をしなくても修理費を受け取ることはできます。

法律上、損害は事故によって車に損傷が生じた時点で発生しています。修理という行為を経て初めて損害が発生するわけではないため、修理の有無にかかわらず、損害賠償を請求できます。

ただし、修理しない場合に修理費の消費税まで請求できるかどうかについては、争いがある点です。この点はケースによって対応が変わりますので、弁護士にご確認ください。

「全損」とは何か——仕組みをわかりやすく説明します

「全損」と聞くと、車が完全に壊れた状態をイメージするかもしれませんが、法的に問題になる全損は「経済的全損」と呼ばれるものです。

経済的全損とは、修理費が「車の時価+買替諸費用」を上回る場合に、修理費自体は支払われず、時価と買替諸費用の合計を上限として賠償するという考え方です。時価単独との比較ではない点に注意が必要です。

状況賠償の扱い
修理費 < 車の時価+買替諸費用修理費が賠償される(通常の物損)
修理費 > 車の時価+買替諸費用(全損)車の時価+買替諸費用を上限に賠償。修理費自体は支払われない

「時価と買替諸費用の合計を払えば車を買い替えられる」という考え方に基づいており、判例上も確立した論理です。全損という枠組み自体を争うことは難しいですが、「時価の算定額」については交渉できる場合があります。

全損でも諦めない——交渉できる2つのポイント

①時価(全損額)の算定を争う

保険会社が提示する時価は、主にレッドブック(オートガイド社の自動車価格月報)に記載された中古車市場価格をベースに算定されることが多いですが、実際の中古車市場での販売価格がそれより高いケースがあります。

実際の中古車市場の相場(カーセンサー・グーネットなど)を調べて、保険会社の提示額との乖離がある場合は、その根拠をもとに交渉することができます。特に人気車種・希少車・旧車などは中古価格が高くなる傾向がありますので、交渉の余地が大きくなることがあります。

②買替諸費用を請求する

全損になった場合、車を買い替える際にかかる諸費用(登録費用・車庫証明費用・自動車税環境性能割など)も上乗せして請求することができます。なお、2019年10月に自動車取得税は廃止され、現在は「自動車税環境性能割」が導入されています(ただし取得価額50万円以下の場合は課税されないため、損害として認められないケースもあります)。いずれにせよ見落とされがちな項目ですが、数万円単位で変わってくる重要なポイントです。

また、買い替えるまでの間に代車を使った場合の代車費用も、相当期間については請求できる場合があります。

全損の場合の車の所有権について

全損の賠償を受け取った場合の車の所有権については、保険の種類によって実務上の取り扱いが異なります。ご自身の車両保険を使う場合は所有権が保険会社に移転することが多い一方、加害者側の対物賠償保険から支払われる場合は所有権が被害者に残るケースもあります。いずれにせよ、全損の賠償金を受け取りながら、車を廃品処理などに出してさらに利益を得るということは基本的にできません。車の扱いについては、賠償を受け取る際に保険会社と事前に確認しておくことをお勧めします。

よくある質問

Q. 保険会社から「全損なので〇〇万円です」と言われました。これは交渉できますか?

交渉できる可能性があります。提示された時価の根拠(減価償却率・算定方法)を確認し、実際の中古車市場の相場と比較することで、増額できる場合があります。また買替諸費用が含まれているかも確認してください。弁護士費用特約があれば、費用負担なしで弁護士に交渉を依頼できます。

Q. 修理費について保険会社ともめています。修理業者と保険会社で言っていることが違います

修理範囲・内容・単価のどの点でもめているかによって対応が変わります。まず争点を整理した上で、修理業者に詳細な説明書を作成してもらうことが有効です。弁護士に相談することで、保険会社への交渉を代わりに進めることができます。

Q. 事故に遭いましたが、まだ修理していません。修理費を請求できますか?

できます。修理をしていなくても、修理費の賠償請求は可能です。ただし、修理しない場合の消費税の扱いには争いがある点に注意が必要です。また、修理見積書は取得しておくことをお勧めします。

Q. 物損だけの事故でも弁護士に依頼できますか?

もちろんです。弁護士費用特約があれば、物損のみの案件でも費用負担なしでご依頼いただけます。特約がない場合でも、交渉によって増額できる見込みがある場合はご依頼いただくことが可能ですので、まずはご相談ください。

まとめ

修理費・全損についてのポイントを整理します。

  • 修理費のトラブルは「修理範囲」「修理内容」「単価」の3つのどこが争点かを見極める
  • 実際に修理しなくても修理費の請求はできる
  • 全損と言われても、時価(全損額)と買替諸費用は交渉できる場合がある
  • 保険会社の提示金額をそのまま受け入れる前に、弁護士に確認する

「物損だけだから弁護士に頼むほどでもない」と思わずに、まずは一度ご相談ください。弁護士費用特約があれば全損の交渉だけでもご依頼いただけます。


弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。

お問い合わせ・ご相談はこちら

03-6206-6168

受付時間: 平日 10:00~19:00

お問い合わせ・ご相談はこちら

03-6206-6168

受付時間: 平日 10:00~19:00

この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

目次