もらい事故の慰謝料相場と示談の注意点|元保険会社側弁護士が解説

「自分は何もしていないのに、なぜ保険会社が動いてくれないのか」——もらい事故に遭った方から、こういった相談が後を絶ちません。

もらい事故(過失割合0:100)は、被害者に一切の過失がない交通事故です。一見すると被害者にとって有利な状況に思えますが、示談交渉の場面では逆に被害者が孤立しやすい構造があります。

この記事では、かつて保険会社の代理人弁護士として加害者側を担当し、現在は被害者側の代理人として多数の交通事故案件に携わっている弁護士が、もらい事故の慰謝料相場と示談の注意点を解説します。

目次

もらい事故(過失割合0:100)とは

もらい事故とは、被害者に過失がない交通事故です。追突事故や信号無視による事故が典型例です。被害者に過失がないこと自体は有利ですが、示談交渉の場面では特有の問題が発生します。

過失割合とは、交通事故の責任を加害者と被害者の間でどう分担するかを示す数値です。もらい事故では加害者が100、被害者が0となります。

もらい事故の代表的なパターンは以下のとおりです。

事故類型過失割合の目安(原則)
後ろから追突された(直進中)加害者100:被害者0
赤信号停車中に追突された加害者100:被害者0
相手が信号無視して衝突してきた加害者100:被害者0
駐車場に止めていた車に当てられた加害者100:被害者0
歩行中、車道を走っていた車に衝突された加害者100:被害者0

被害者に一切の責任がないため、損害賠償は全額を相手側に請求できます。ただし「全額請求できる」ことと「全額適切に受け取れる」ことは、実際には別の話です。

もらい事故で自分の保険会社が使えない理由

もらい事故では、被害者側の保険会社は示談交渉を代行できません。保険会社が示談代行できるのは、自社の被保険者に賠償義務がある場合に限られるためです。被害者は相手保険会社と一人で交渉することになります。

多くの方が「保険に入っているから安心」と思っています。しかし、「示談代行」という機能は保険会社が賠償金を支払う立場にある場合にのみ使えます。もらい事故では被害者側の保険会社が賠償金を払う義務がないため、弁護士法72条(非弁護士の法律事務の禁止)の関係で、保険会社は交渉を代行できないのです。

私が保険会社側の代理人弁護士をしていたころも、この構造は明確でした。相手が過失ゼロのもらい事故であれば、相手側保険会社は出てきません。被害者が直接交渉の窓口になるため、保険会社の担当者は「慣れていない相手」を前に交渉を進めることになります。被害者が不利になりやすい場面のひとつです。

ただし、次の2点は利用できます。

  • 弁護士費用特約:弁護士への依頼費用を保険会社が負担してくれる特約。もらい事故でも利用可能
  • 人身傷害補償保険:被害者自身のケガについて、自分の保険から先払いを受けられる場合がある

もらい事故の慰謝料相場

もらい事故の慰謝料は、通常の交通事故と同じく自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つがあります。弁護士基準で計算すると、自賠責基準の2〜3倍になることが一般的です。

3つの基準の違いを整理します。

基準算定主体金額水準特徴
自賠責基準国(自動車損害賠償保障法に基づく)最も低い最低限の補償。1日あたり4,300円で計算
任意保険基準各保険会社自賠責と同じか、若干高い程度非公開。保険会社ごとに異なる
弁護士基準(裁判基準)裁判所・弁護士会最も高い「赤い本」(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)に基づく

入通院慰謝料の弁護士基準による目安は以下のとおりです。骨折等の重傷(別表I)と、むちうち等の軽傷(別表II)で金額が異なります。

別表I(骨折等・重傷の場合)

入院期間通院3か月通院6か月
入院なし約73万円約116万円
入院1か月約115万円約149万円
入院3か月約188万円約211万円

別表II(むちうち等・他覚所見のない軽傷の場合)

入院期間通院3か月通院6か月
入院なし約53万円約89万円
入院1か月約83万円約113万円

もらい事故で多いむちうち(神経症状・他覚所見なし)は別表IIが適用されます。骨折や脱臼など他覚所見のある重傷の場合は別表Iが適用され、金額が大きく変わります。後遺障害が認定された場合はさらに後遺障害慰謝料が加算されます。後遺障害14級(むち打ちで最も多い等級)の弁護士基準による慰謝料は110万円程度です。

保険会社が提示する示談金が低い理由

相手保険会社が提示する示談金は、多くの場合、自賠責基準か任意保険基準で算定されています。弁護士基準との差額は数十万円から数百万円になることがあり、そのまま受け入れると損をする可能性があります。

なぜ保険会社は低い金額を提示するのか。これは保険会社の悪意ではなく、構造上の問題です。私が保険会社側の代理人をしていた経験から言えば、担当者には「社内基準(任意保険基準)で処理する」という実務上のルールがあります。その基準が弁護士基準を大きく下回るように設定されているため、担当者個人の意図とは無関係に、低い示談金が提示される仕組みになっています。

被害者が「相場がわからない」「早く解決したい」という状況だと、その提示額を受け入れてしまいがちです。示談書に署名・押印した後は、原則として追加請求ができなくなります。署名前に必ず金額の妥当性を確認することが重要です。

以下のような項目が漏れていないかも確認が必要です。

  • 休業損害(事故によって仕事を休んだ期間の収入補償)
  • 交通費(通院にかかった実費)
  • 後遺障害逸失利益(後遺障害が残った場合、将来の収入減少に対する補償)
  • 将来の治療費(症状固定後も治療が必要な場合)

もらい事故で弁護士費用特約を使うべき理由

もらい事故の被害者こそ弁護士費用特約を活用すべきです。自分の保険会社が示談代行できないため、弁護士に交渉を依頼するメリットが通常の交通事故より大きくなります。

弁護士費用特約とは、弁護士に依頼した際にかかる費用(相談料・着手金・報酬金など)を、自分が加入している保険会社が支払ってくれる特約です。上限は300万円が一般的で、通常の交通事故案件であればほぼカバーできます。

私がかつて保険会社側で審査をしていた立場から言うと、弁護士費用特約の適用審査は「事故態様がもらい事故かどうか」に敏感ではありません。つまり、もらい事故であっても特約の支払い審査に不利になることはなく、通常の交通事故と同じ基準で審査されます。「もらい事故だから使えないかも」と思い込んでいる方もいますが、それは誤解です。

弁護士費用特約を使う場合の流れは次のとおりです。

  1. 自分が加入している保険会社に「弁護士費用特約を使いたい」と連絡する
  2. 自分が希望する弁護士と契約する(弁護士特約を利用する場合、保険会社から弁護士を紹介されることがありますが、その弁護士に依頼しないと弁護士特約が使えない、ということはありません。)
  3. 弁護士費用は保険会社から直接弁護士に支払われる

なお、同居の家族が弁護士費用特約に加入していれば、自分が特約に加入していなくてもその特約を使える場合があります。自分の保険だけでなく、家族の保険も確認してみてください。

もらい事故で弁護士に依頼するメリットと費用

弁護士に依頼することで、慰謝料が弁護士基準で算定されるため、示談金の増額が期待できます。弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なく弁護士に依頼できます。

弁護士に依頼する主なメリットを整理します。

メリット説明
慰謝料の増額弁護士基準(裁判基準)で算定・交渉するため、任意保険基準より高くなる可能性がある
交渉の代行保険会社との電話・書類対応を全て弁護士が引き受ける
適切な後遺障害申請後遺障害等級の申請や異議申立を適切に進められる
見落とし防止休業損害・逸失利益など、請求できる項目を漏らさず積み上げられる
示談書の確認不利な条項が入っていないかを法的に確認できる

弁護士費用特約がない場合の費用目安は以下のとおりです(弁護士によって異なります)。

費用の種類目安
法律相談料初回無料の事務所が多い(30分5,500円が標準)
着手金事案によるが、着手金無料が一般的
報酬金増額分の10〜20%程度(成功報酬型の場合は着手金0のことも)

弁護士費用特約がある場合は上記費用のほぼ全額が保険でカバーされるため、自己負担はほとんど発生しません。特約の有無を確認した上で、まず弁護士に相談することをお勧めします。

よくある質問

もらい事故の慰謝料はいくらもらえますか?

事故の程度・通院期間・後遺障害の有無によって大きく異なります。弁護士基準(裁判基準)では、むちうち等の軽傷(別表II)で通院3か月約53万円・通院6か月約89万円、骨折等の重傷(別表I)で通院3か月約73万円・通院6か月約116万円が目安です。相手保険会社が提示してくる任意保険基準とは差があり、そのまま受け入れると適切な賠償を受けられない可能性があります。

もらい事故で自分の保険会社が示談交渉してくれないのはなぜですか?

保険会社が示談を代行できるのは、自社が賠償金を支払う立場にある場合に限られます(弁護士法72条の制約)。もらい事故では被害者側の保険会社に賠償義務がないため、法律上、示談代行ができません。これは保険会社の怠慢ではなく、法律上の制約によるものです。

もらい事故で弁護士費用特約は使えますか?

使えます。弁護士費用特約は、過失割合が0のもらい事故であっても適用できます。自分の保険契約を確認し、特約が付いていれば保険会社に連絡して手続きを進めてください。同居の家族が加入している場合も利用できる場合があります。

もらい事故で相手が任意保険に入っていない場合はどうなりますか?

相手が任意保険未加入の場合(いわゆる「無保険車」)でも、自賠責保険への請求は可能です。ただし、自賠責保険は補償上限が定められており(傷害120万円・死亡3,000万円など)、損害全額をカバーできないケースがあります。この場合、自分が加入している「無保険車傷害特約」や「人身傷害補償保険」で不足分を補えることがあります。相手が無保険であれば、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

もらい事故の示談にはどのくらいの期間がかかりますか?

ケガの治療が終了(症状固定)してから示談交渉が本格化します。治療期間が数か月であれば示談まで数か月〜半年程度、後遺障害認定の手続きが入る場合はさらに長くなります。示談を急がせるような連絡が相手保険会社から来ても、治療が終わっていない段階で示談に応じる必要はありません。治療費の支払いが終了しても、治療が続く場合は「打ち切り後の治療費請求」という形で対応できることがあります。

もらい事故の損害賠償請求の時効に注意

もらい事故の損害賠償請求にも時効があります。2020年4月施行の改正民法により、人身損害の時効は事故日(損害と加害者を知った時)から5年です(民法724条の2)。物損については3年のままです。

なお、自賠責保険への被害者請求の時効は、自動車損害賠償保障法16条により3年とされています。自賠責への請求と加害者への損害賠償請求では時効の期間が異なるため、注意が必要です。

まとめ

もらい事故(過失割合0:100)は、被害者に全く責任がない事故です。しかし、示談交渉の場面では被害者が一人で相手保険会社と向き合う構造になりやすく、提示される示談金が弁護士基準を大幅に下回るケースが珍しくありません。

ポイントをまとめます。

  • 自分の保険会社は示談代行できない(法律上の制約)
  • 相手保険会社の提示額は任意保険基準が多く、弁護士基準より低い
  • 弁護士費用特約があれば、自己負担なしで弁護士に交渉を依頼できる
  • 示談書に署名する前に、必ず金額の妥当性を確認する
  • 治療中の段階での早期示談には応じる必要はない

適切な賠償を受けるためには、示談書への署名前に一度弁護士に確認することを強くお勧めします。弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。

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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

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