交通事故の休業損害|主婦・パートの計算方法と保険会社の対応

交通事故でむちうちになり、2ヶ月間家事がほとんどできなかったので、保険会社に休業損害を請求したところ、「専業主婦には収入がないため、休業損害は支払えません」と言われた——こうした回答を受けて相談にいらっしゃる方は多いです。

しかし、このような保険会社の回答は、明らかに誤ったものといえます。

この記事では、私はかつて保険会社の代理人弁護士として加害者側を担当し、現在は被害者側の代理人として多数の交通事故案件に携わっている立場から、主婦・パートの方の休業損害の正しい計算方法と、保険会社が低い金額を提示する理由を解説します。

目次

専業主婦の休業損害はどう計算するか

専業主婦は収入がなくても休業損害を請求できます。賃金センサスの女性全年齢平均(年収約400万円前後)を基準に、1日あたりの金額を算出し、家事ができなかった日数を掛けて計算します。

専業主婦に休業損害が認められる法的根拠は、家事労働が財産的価値を持つという裁判所の考え方にあります。最高裁判所は昭和49年の判決で、主婦の家事労働には財産的価値があり、その損失も損害として賠償されるべきと判断しています。

計算式は以下の通りです。

休業損害 = 賃金センサス女性全年齢平均 ÷ 365日 × 休業日数

賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の女性全年齢平均は年収約390〜420万円程度で推移しています(毎年更新されるため、事故年の数値を使います)。1日あたりに換算すると約10,700〜11,500円程度になります。

「休業日数」の考え方も重要です。実際に家事ができなかった日数(医師が安静を指示した期間・通院日・自宅療養日を含む)が対象になります。通院日だけでなく自宅療養日も含まれる点は見落とされがちですが、その一方、通院日は100%主婦業ができなかったのか、という問題もあります(当然ですが、入院している期間は、100%できないものとして計算するのが一般的です。)。

実際、これまで、専業主婦の場合でご依頼いただいた場合、通院期間や症状等にもよりますが、休業損害だけで数十万円上がる例が多数ございます。

パート・兼業主婦の休業損害の計算方法

パートをしている兼業主婦の場合、パート収入と賃金センサスの女性全年齢平均を比較して高い方を基準にします。多くの場合、賃金センサス基準の方が高額になるため、主婦としての休業損害を請求する方が有利です。

兼業主婦(パートとして働きながら家事も担っている方)の場合、2つの計算方法を比較します。

計算方法基準額(1日あたり)適用場面
実収入基準パート収入 ÷ 稼働日数パート収入が賃金センサスを上回る場合
賃金センサス基準女性全年齢平均 ÷ 365日パート収入が賃金センサスを下回る場合(大多数)

時給1,000〜1,500円程度のパート勤務の場合、週3〜4日・1日4〜6時間程度の勤務であれば年収は100〜250万円程度になります。これは賃金センサスの女性全年齢平均(約390〜420万円)を大きく下回るケースがほとんどです。

この場合、賃金センサス基準で計算した主婦としての休業損害の方が高額になるため、そちらを主張することが被害者にとって有利です。実務では、パート収入の証明(源泉徴収票・給与明細)と、家事を主に担っていることを示す事情(家族構成・家事の内容等)を合わせて主張することで、賃金センサス基準での認定を求めます。

保険会社が提示する休業損害が低い理由

保険会社は自賠責基準(2020年4月以降の事故で1日6,100円)で計算した低い金額を提示してくることが多いです。弁護士基準(裁判基準)で計算し直すと金額が大幅に上がるケースは珍しくありません。

損害賠償の計算には3つの基準があります。

基準内容金額水準
自賠責基準自賠責保険の支払い基準最も低い(1日6,100円。2020年4月以降の事故の場合)
任意保険基準各保険会社が独自に設定自賠責より高いが弁護士基準より低いことが多い
弁護士基準(裁判基準)裁判所が認める基準3つの中で最も高い

ここでいう保険会社とは、加害者側の保険会社になりますから、当然、被害者側の味方をしてくれるわけではありません。なるべく支払いが少なくなるように話をしてきます。

そのため、保険会社の担当者は、被害者が弁護士をつけずに交渉に応じている間は、自賠責基準または低い任意保険基準での提示を維持する傾向があります。こうした提示は被害者にとって不利な金額となりやすく、被害者が正確な基準を知らない限り、そのまま低い金額で示談してしまうケースが実際に起きています。

弁護士費用特約がある場合は、実質自己負担なしで弁護士に交渉を依頼できます。弁護士基準での交渉に切り替えることで、休業損害だけでなく慰謝料全体が増額される可能性があります。

休業損害の請求で注意すべきポイント

通院日数だけでなく自宅療養で家事ができなかった日数も含めて請求できます。医師に家事労働の支障について意見書を書いてもらうことで、保険会社との交渉が有利に進むこともあります。

主婦の休業損害で請求できる「休業日数」に含まれるものを整理します。

  • 実通院日数:病院・整骨院等への通院日
  • 自宅療養日数:医師の指示による安静期間・自宅療養期間
  • 一部休業日数:家事の一部しかできなかった日(減額して計算)

保険会社は「通院した日だけが休業日数」と主張することがありますが、これは誤りです。自宅療養期間も含めて、実際に家事に支障があった期間全体が対象になります。

医師に「家事への支障」を診断書や意見書に記載してもらうことが、交渉を有利に進める上で重要です。具体的には、「家事全般が困難な状態にあった期間」「家事の一部しかできなかった期間」等を明記してもらいます。整形外科での診察の際に、家事への支障についても医師に伝えておきましょう。

よくある質問

男性でも主夫としての休業損害は認められますか?

男性でも、主夫として家事を主に担っている実態があれば休業損害が認められる場合があります。裁判例では、専業主夫に対して賃金センサスの男性全年齢平均を基準にした休業損害を認めた例があります。家事の分担状況・配偶者の就業状況・家族構成等を具体的に主張・立証することが必要です。

産休・育休中の交通事故でも休業損害はもらえますか?

産休・育休中の場合も、休業損害を請求できる場合があります。産休・育休中は収入がゼロまたは育児休業給付金のみという状況ですが、事故がなければ育休明けに復職して収入を得ていたはずという前提で、育休前の給与を基準に算定することが認められた裁判例があります。また、育休中の育児・家事労働への支障を主婦として把握することも可能です。具体的な事情によって異なるため、弁護士に相談してください。

休業損害はいつまで請求できますか?

休業損害は、症状固定(治療をこれ以上続けても改善が見込めない状態)までの期間が対象になります。治療が長期にわたる場合でも、症状固定日までの実際の休業損害を請求できます。症状固定後に後遺障害が残った場合は、その後の収入減少は「逸失利益」として別途請求する形になります。消滅時効は損害および加害者を知った時から5年(民法724条の2)です。

まとめ

専業主婦・パートの方の休業損害は、賃金センサスの女性全年齢平均を基準に算定するのが裁判所の基準です。保険会社が低い金額を提示してきても、そのまま合意する必要はありません。弁護士基準での計算に切り替えることで、受け取れる金額が大幅に変わることがあります。弁護士費用特約があれば原則自己負担なしで依頼できます。まず一度、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士費用特約があれば、原則として自己負担なしで依頼できます。初回相談は無料です。

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この記事を書いた人

弁護士/心理カウンセラー/夫婦カウンセラー

法律と心、両方の視点から問題に向き合い、「本当に納得できる解決」を大切にしています。
男女問題・借金問題・交通事故など、心の負担が大きいトラブルや人間関係のお悩みに強みがあります。法律実務歴10年以上。安心してご相談ください。

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